う~、酔った。
飲み過ぎた。
今日は俺の送別会だった。
長年勤めてきた会社を辞め、
同僚や上司に送別会を開いてもらうことになった。
最後だからと、
ガンガン酒を飲んだのがまずかった。
送別会がお開きになり、
俺は千鳥足のまま駅のホームにやってきた。
あー、ダメだ、眠い。
無性に眠い。
クラクラする頭のまま電車を待っていたのだが、
あまりの眠さに負け、
その場に崩れ落ちてしまった。
電車が来た。
ま、いっか。
次の電車に乗って帰るとしよう。
……、周りがザワザワとやけにうるさい。
しかし俺は睡魔に勝てず、
目を瞑ったまま喧騒が止むのを待っていた。
ザワザワ、ガヤガヤ
喧騒が止むどころか、
徐々にうるささが増したように感じる。
うるせーなぁ、さっさと帰れよ。
しばらくすると、
誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
『……うわ、ダメだなこりゃ』
足音の主はそう言った。
あ?うるせぇ、近寄るなよ。
黙って寝かせろ。
目を瞑ったままそんな事を思っていると、
声の主は俺の髪の毛を掴んできた。
何しやがる、離せ。
酔っ払いはゴミ扱いか。
まぁ、仕方ない。
頭がグラグラする為、
動くのも面倒くさい。
起きたら覚えておけよ。
俺の髪の毛を掴んでた奴は急に手を離しやがったのか、
俺はそのまま地面に落ちた。
ガンッ
急に離すんじゃねえよ。
急に離されたもんだから、
顔から落ちちまったじゃねぇか。
しかし、真っ暗だな。
一体どこに連れてきやがったんだ。
俺は瞑っていた目をゆっくりと開けた。
目の前には
俺の愛用している左手にはめた腕時計があった。
時間を確認しようとしたが、
文字盤が逆さまになっていて
意識があまり無い俺には何時なのか分からない。
まぁ……いいや。
もう少し寝よ…う。
【解説】
語り手はホームで崩れ落ちた結果、
やってきた電車にひかれてしまった。
ザワザワしているのは人身事故のせいで、
語り手が髪の毛を掴まれているのは
電車にひかれたことで身体がバラバラになり、
生首になってしまったから。
生首を掴んでいる人は
遺体処理班の人。
真っ暗になったのは
遺体をバケツのような入れものに入れられたため。
生首の状態になったにも関わらず
意識がある語り手が恐ろしい。
意識はあるが、
痛みを感じていない。
痛みを感じていなくて良かったのかもしれない。