俺は多忙なサラリーマンで、
昨日も出張に行ってきたばかりだ。
俺には愛する妻と息子がいる。
明日は交際記念日。
「何をプレゼントしようかな‥
これなら無愛想なアイツも喜んでくれるか」
俺はプレゼントを買い、
バッグの中に隠して帰った。
-次の日-
「あなた―!
早く起きて朝食食べちゃって!
片付けられないじゃない」
「あぁ、悪い」
いつものように妻は俺を起こし、
いつものように俺は妻の作った朝食を食べる。
「じゃ、行ってくる」
「‥」
妻は無言だった。
‥気のせいだろうか。
今、不気味な笑みを浮かべた気がした。
そして俺は、
いつものように朝の満員電車に乗る。
「今日はやけに空いてるな」
見渡すと、
乗客はいつもの何倍も少ない。
さすがに俺も、
嫌な予感がした。
そこで、他の乗客に話を聞くと‥
「ば‥罰があたったんだ!
あんな事さえしなければ‥
あ、あんたは何をしたんだ!
人殺しか?それとも強盗か?」
変なやつだな。
何故そんな馬鹿馬鹿しい事を聞くんだ。
第一、そんな事をしたら今頃は刑務所行きだろ。
幾分か経ち、
俺は車内の不穏な雰囲気に気づいた。
だんだんと熱くなり、
周りの連中はあたかも絶望したかのように突っ伏している。
そんな中、
車内アナウンスが流れる‥
その瞬間、俺は全てを理解し、絶望した‥‥
【解説】
語り手には浮気相手がいた。
出張で忙しいというのも、
こっそり浮気相手と会うための口実。
『明日は交際記念日』と言っているのは
浮気相手との交際記念日のこと。
『これなら無愛想なアイツも喜んでくれるか』
のアイツが浮気相手。
浮気相手のためにプレゼントを買ったが、
そのプレゼントが妻にばれてしまった?
次の日に妻は語り手を殺そうと
毒を入れた朝食を食べさせ、
語り手は死んでしまった。
『行ってくる』
といったあとに無言だったのは、
語り手がすでに死んでしまっていたから
妻にはその声が届かなかった。
妻の不気味な笑みは
思い通り殺すことができたため。
それに気づかない語り手は、
普段通りに電車に乗ったものの、
他の人の発言や、
電車が進むにつれてだんだんと熱くなっていることから、
語り手が乗っている電車は地獄へと向かっていることになる。
『愛する妻』
と言っているのに
浮気はいけないよ、浮気は…