【意味怖】意味がわかると怖い話まとめ

【意味怖】意味がわかると怖い話を読んで頭の体操を!捉え方は人それぞれであり、答えは一つであるとは言えません。解説も答えではなく、一つの捉え方。あなたがどう捉えたかを教えていただけると幸いです。


【意味怖】人喰い鏡

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俺の通う高校には所謂七不思議ってヤツがある。

 

お馴染みの「三階女子トイレの花子さん」、
夜になると一段増える「北校舎の十三階段」

 

………まあ、どの学校にもありがちな、
ありきたりなネタだよな。

 

その中に、午前零時になると人を喰らう
「踊り場の人喰い鏡」というものがある。

 

普段生徒が立ち入らない旧校舎の南側、
階段の踊り場には大きな鏡があって、
午前零時にその鏡の前に立つと鏡に喰われてしまうというものだ。

 


「いやいや、喰われちまったら
どうやってその話を誰かに伝えるんだよっていう」

 

「七不思議の揚げ足をとってんじゃねーよ」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

極めて冷静に、
かつ理論的な意見を口にした俺を強烈なアッパーが襲う。

 

この野蛮と粗暴を絵に描いたような原始人ガールは
幼馴染みの友部舞。

 

幼少の頃からコイツの暴言暴力に悩まされている俺だが、
根はいいヤツだって事は俺が一番よく知っている。

 

「そんな細かい事をいちいち気にしてたら、
七不思議の楽しみが半減するじゃない」

 

「いや俺はあくまで理論的にだな…」

 

「うっせビン底眼鏡。
だからモテねーんだろうがこの屁理屈素人童〇が」

 

「なっ…お前はまた人のコンプレックスをそうやって!!」

 

どうせ俺はド近眼だけどよ!!

 

つーか女子が軽々しく〇貞とか言うなや!!!

 

「ほら行くよ。もう時間になっちゃう」

 

「ああ、わかって…いででででで!
ギブギブギブギブ!!
引きちぎる気かバカヤロー!!!」

 

頭髪を鷲掴みにされ引っ張られるという
人権を無視した行為によって、
俺は強制的に舞に連行された。

 

精神的にも肉体的にも俺のライフはゼロである。

 

………根はいいヤツなんだよ。

 

うん。ホント。

 


そう言えば、
俺達の現状を話してなかったよな。

 

時刻は午後11時半。

 

場所は高校の旧校舎前。

 

俺達は、
今まさに七不思議の舞台に乗り込もうとしていた。

 


俺は幽霊とか怪談とか全く信じてない。

 

全ての恐怖現象は科学で証明されるか
只の錯覚だと信じる根っからの科学信望者だ。

 

ビバ、科學の子。

 

対して舞は幽霊怪談都市伝説が大好きなオカルト少女。

 

思い起こせばコイツは小中の九年間、
学校の七不思議を究明することに心血を注いでいた。

 

そんな俺達は全てが真逆でありながら、
何故かいつでも一緒につるんできた。

 

七不思議の究明だって、
いつも二人でやっていた

 

(決して、舞に対して頭が上がらない俺が
奴隷の如くこき使われていたわけではない)

 

そんな俺達が、
この学校の七不思議を解明しないわけがないだろ?

 


「今何時?」

 

「11時55分。あと5分だな」

 


俺は左手首の腕時計を見て言った。

 

件の鏡の前に到着して、
あとは零時を待つばかりだ。

 

「あと5分?じゃ、私トイレ行ってくるわ」

 

「マジかよ。
つーかお前はよくこんな暗い校舎のトイレに行こうと思うな。
そもそも水使えんのか?この旧校舎」

 

「七不思議ハンターをなめんじゃないわよ。
勿論調査済みよ」

 

「お前はいつの間にジョブチェンジしたんだ」

 

自称七不思議ハンター舞は
今夜の調査のために旧校舎の構造やら何やら調査してきたらしい。

 

ちなみに、旧校舎の鍵をくすねてきたのも舞。

 

全く、将来が有望だよお前は。

 


「………遅い」

 

舞のヤツ遅いな…

 

おっきい方でもしてんのか?

 

…ったく、どうせ今回だって空振りだろうに。

 

今までだって全部ガセだったじゃねぇか。

 

イライラした俺は懐中電灯を腕時計に向ける。

 

「あと何分だ…………え?」

 

時計の針が指していたのは
午前零時、ちょうどだった。

 

「………まさかな、幽霊や怪談なんて…」

 

信じてなんかいない。でも、

 

俺は、恐る恐る鏡の方を振り返る。

 

――何もいない。何もいない。何もいない。何もいない!

 


鏡には、

 

恐怖にひきつる俺の顔と、

 

鏡から伸びる、青白い二本の腕が――。

 

 

「う、うわあああああああああああああああああああ!!!」

 


「え?何!?どうしたの!?」

 

「うわああああああああああああああああああああああ!!!」

 

舞の声が聞こえる。

 

でも俺は答えられない。

 

俺の腕を掴む二本の腕が
それを許してはくれないからだ。

 

鏡から伸びた腕は
俺の腕をものすごい力で掴んで放さない。

 

爪が肉に食い込み、
今にも引きちぎれそうだ。

 

「放せ!放せ!放せぇええええええええ!!!!」

 

俺の手首を掴んでいた腕は
今は肘辺りを掴んでいる。

 

腕はだんだんせり上がってきていた。

 

腕が付けた深い爪痕から俺の血が溢れ出す。

 

知るかんなもんどうでもいい。

 

眼鏡は揉み合っている内に落とした。

 

構うもんかもう必要ない。

 

今は、今はこの腕を引き剥がさないと!

 

「ああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

腕はゆっくりと、俺の肩まで這い上がってきた。

 


「――どりゃあああああ!!」

 

舞の怒声が響き渡った。

 

舞はモップの柄を降り下ろして
俺の腕を掴む腕に攻撃をした。

 

腕は一瞬怯んだが、
また俺を掴もうと伸びてくる。

 

「させ、るかぁああああ!!」

 

一撃、また一撃と腕に強烈なダメージを与える舞。

 

ボコボコにされて大分弱っているけれど、
そのうち腕は舞の方へと弱々しく手を伸ばした。

 

「………!行くぞ!舞!」

 

俺はとっさに舞の腕を掴んで走り出した。

 

目指すは勿論出口。

 

もう少し、もう少し――。

 


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「はぁ、はぁ…ねぇ、いつまで手を掴んでんのよ」

 

「ああ、悪い。つい――」

 

俺は咄嗟に左手を放す。

 

舞の腕には俺の手形がはっきりついてしまっている。

 

「乙女の体を傷物にしおって…」

 

「仕方ないだろ緊急事態だ…って誰が乙女だ」

 

「責任とって慰謝料を払いなさいよ。
今なら腐れ縁のよしみで五百万程度でいいから」

 

「お前は本当に女か!?」

 

え?ここ普通

 

「責任とって…私をお嫁さんにしなさいよ。馬鹿…」

 

とかじゃなくて?

 

いやお前に言われたら昇天するわ。

 

悪い意味で。

 

「何にせよ、無事に逃げられてよかったな」

 

「私に感謝なさい」

 

「いや、でもお前あれやり過ぎ…いや何でもない」

 

流石七不思議ハンターを自称するだけのことはある。

 

舞は俺の悲鳴を聞いて
咄嗟に近くのロッカーからモップを引っ張り出したらしい。

 

頼もしいな本当に。

 

アイツも舞にコテンパンにやられるなんて可哀想な奴だ。

 

同情はしないが。

 

腕の怪我を撫でながら俺は思う。

 

「もう帰ろうぜ。怪我の手当もしたいし」

 

「そうだね。次の調査のために英気を養わないと」

 

「懲りてねえのかよ!」

 


そんな漫才をしながら、
俺は忌々しい旧校舎を振り返り見上げる。

 

あんなに騒いだのに、
ほんの十分くらいしか経ってなかった。

 

旧校舎の時計を見た俺は正直拍子抜けした。

 

舞は乗り気だが、
俺は七不思議はこりごりだよ。

 

しばらくは鏡も見たくないな。

 


ま、これが俺が体験した怖い話だ。

 

中々怖いだろ?

 

え?怖くない?

 

ひっでーな(笑)

 

まあ、人喰い鏡なんて言うのはちと大げさかもなー。

 

また怖い話があったら、話してやるよ!舞が。

 

 

【解説】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中で語り手が変わっている。

 

『ビン底眼鏡』の『ド近眼』だったはずの語り手は

旧校舎を出た時には眼鏡を落としているはず。

 

にもかかわらず、

校舎の壁の時計が見えている。

 

眼鏡を

『もう必要ない』と言ったのは

入れ替わった偽物は目が悪くないため

眼鏡は本当に必要なかったから。

 

 

語り手と入れ替わったのは、

『う、うわあああああああああああああああああああ!!!』

と叫んでいるとき。

 

語り手はここで

鏡の中に引きずりこまれ、

舞が戻ってきた時に腕を引っ張られていた語り手は

すでに入れ替わった偽物。

 

鏡の中から出た二本の腕が

本物の語り手のものだった。

 

 

語り手は左手首に腕時計をしていることから

語り手は右利きだと予想される。

 

しかし、

『咄嗟に左手を放す』

とあることから、

左手で舞を掴んでいたことがわかる。

 

偽物は左利きであったため、

咄嗟に左手で掴んだのだろう。

 

 

偽物は鏡の中から出てきたため、

視力や利き手が反転しているのだろうが、

性格は反転していないように思われる。

 

となれば、違和感はあるものの

そこまで気にしないだろう。

 

きっと誰も語り手が入れ替わったことに気づかず、

当たり前の生活が続いていく。

 

…語り手は鏡の中に取り残されたまま

一体何をしているのだろうか…?