会社の帰り道の夜七時頃、
私はあの男に会った。
こちら目掛けて手を大きく振りながら近づいて来る。
私は立ち止まった。
私のすぐ目の前まで来ると、
彼は立ち止まり明るく微笑んだ。
気が付くともう十時。
どうやら時間の感覚を失ってしまっていたらしい。
彼も気が付くと姿が見えない。
知らないうちに帰ってしまっていたのかな。
全然気付かなかった。
私はどうにか立ち上がり、
ふらふらと千鳥足で歩きだした。
【解説】
『彼』は通り魔で、
語り手は刺されてしまった。
『気が付くともう十時』
だったのは、刺されて気を失っていたからで、
だから立ち止まっていたはずなのに
立ち上がる必要があった。
『ふらふらと千鳥足で歩きだした』のは
大量に出血しているため。
通り魔はいつどこで現れるかわからないから
非常に恐ろしいものである…。