お母さんが死んだ。
家には連日お巡りさんが出入りしているようだ。
凶器は包丁、
犯人を刺そうとしたときに
逆にお母さんが刺された。
捜査の間は
しばらく近くのホテルに泊まっているケド…
何でお母さんが………
ずっとこの私には優しくしてくれたのに………
お父さんに泣きついた。
でも泣きじゃくる私が
喪主の仕事を邪魔しているようで
「犯人もきっとすぐに見つかるよ」
とか言って突き返される。
私のお母さんは凄く優しかった。
私はいつからか急に意識を失うようになった。
そして私が意識を戻すまで
ずっと手をギュッと握っていてくれているらしい。
小学校5年の頃、
私はイジメの対象になった。
その頃、世間では
猟奇殺人鬼が話題になっており、
私に畏敬の念のようなものを持たせていた。
それはさておき、
泣いて帰宅する私に
いつも勇気をくれたお母さんが大好きだった。
でもある頃からいじめっ子を目の前にすると
急に意識が飛ぶようになった。
そして気づくと保健室に。
怪我もないのに両手に包帯がぐるぐる巻き。
どうしてだろう?
隣のベッドにはいじめっ子もいたし
意味が分からない。
それで学校に迎えに来たお母さんは
いつも決まってこう言う。
「あなた誰?何も覚えてないの?」
私は決まり文句のようにこう答える。
「A(私の名前)だよ。
またいじめっ子の前で意識失っちゃった…」
この言葉を待っていたかのように
お母さんは包帯を解いて私を抱きしめる。
あれから11年も経つと
さすがに自分の異常さに気づく。
だから先生も、学校の友達も、、
そんな目で見ないでよ。
あれっ
なんだk…
あぁ、
また何か書きやがったよAめ。
ばか、精神科医行けよ。
いや、アタシが消えたら
Aがイジメられるからなー。
んまぁ、おふくろがAが可哀想だとか言って
アタシに消えろと刃向かったから
おふくろが消えちゃったよ、ったく。
捕まらねーように気をつけなきゃ。
【解説】
語り手は二重人格であり、
猟奇殺人鬼。
その裏の人格が
お母さんを殺した。
裏の人格は表の人格を
とても大事に思っているようだ。
『ばか、精神科医行けよ』
『いや、アタシが消えたら
Aがイジメられるからなー』
という言葉から、
裏の人格は消えてもいいと思っている。
しかし、語り手が裏の人格のことを知り、
お母さんを殺したのは裏の人格、
つまり自分だと知ったときはどんな反応をするだろうか?
お母さん以外も殺したり、傷つけているだろうし、
語り手はその罪に耐えられないかもしれない…