今日は初めて彼女の家に行く日だ。
「そんなに固くなんないでよーwま、お父さんもお母さんも厳しい方だけど」
なあんて彼女は笑うが、ますます緊張する訳で。
「あれ、おまえ妹いるんだよな?」
「うん、ナツミってのがいるよ。私に似て可愛い」
ああそうかい、と乱暴に頭を撫でると、彼女は楽しげに笑った。
「ただいまぁ」
「お邪魔します」
緊張しつつ玄関に入ると、きつい柑橘系の香りがした。
見渡すと、どでかい消臭剤がある。
「こっちこっちー」
彼女に招かれ、奥へ進む。
しかし、その匂いは薄れる事なく、さらに強くなっていった。
消臭剤は探さずとも目につくようになった。
酔いそうだ、と少し思う。
ぴたり、と彼女はあるドアの前で足を止めた。
「みなさま、こちらが私の彼氏です」
そして、おどけたように言い、ゆっくりとドアを開く。
夕食の準備は既に出来ていた。
「……、何で、ナツミちゃんも?」
「ナツミはいつも、お母さんとお父さんの言いなりだもん」
今日ぐらいは私の言いなり、と悪戯っぽく言う。
暗い部屋にある3つの家族を見て、俺は悟った。
「別れるとか、絶対嫌だったの」
「……………ああ」
3体の無機質な目は、何も映さない。
【解説】
『3体の無機質な目は、何も映さない。』
両親、そして両親の妹のナツミまで、
彼女の手によって殺された。
消臭剤は遺体の匂いを消すため。
両親はきっと語り手と付き合うことを
猛反対したのだろう。
当たり前のように家族の遺体を見せる彼女…。
彼女自身が殺したにも関わらず、
語り手に見せるということは、
語り手に受け入れてもらえると思ったのだろう。
「家族を殺してでもあなたと一緒にいたかった」
という彼女からのメッセージである。
しかし、狂気とも言えるその行動に
きちんと応えられる人は
果たしてどのくらいいるだろうか…?
語り手がこれからどんな決断をするのか、
正直気になるところである。
にしても…両親を殺すくらいだから、
時間が解決してくれるレベルではなかったのだろう…。
文章だけだとひどい彼氏ではなさそうであるが…
父親としては、
「お前に娘はやれん!」
と言いたいがために厳しく言っていたのであれば、
それはまた悲しい話になってしまうかもしれない…。
彼女がこのような狂気的な行動を起こしたのであれば、
別れることになったら語り手はタダでは済まないだろう。
別れずにそのまま付き合うとしても、
束縛、監禁に域までいってしまいそうである。
…本来であれば彼女は捕まるであろうが…
家族を殺し、平気で彼氏に見せることができる。
正直その思考の人と一緒にいると、
彼氏自身が狂ってしまいかねないだろう…。