妻が扉を開き、
一緒に新婦控え室へと入った。
そこには、
支度を済ませた娘が立っていた。
純白のドレスとベール、
より一層魅力を引き出す化粧……
まるであの日の妻を見ているようだ。
あの泣き虫だったお前が、もう結婚か……
月日が経つのは早いものだな。
娘は、妻の手元にある物に気付き急にボロボロと泣き始めた。
おいおい、せっかくの化粧が崩れてしまうぞ?
「あなたはいつまでも泣き虫ね……ほら……」
そう言って妻は娘の涙をハンカチで拭った。
「グスッ……お父さん……
ずっと見せたかった花嫁姿だよ……どうかな……?」
ああ、素敵だよ。
今日のお前は、誰が何と言おうと世界で一番美しいよ。
とうとう妻まで泣き出してしまった。
まったく、二人して涙もろいなぁ。
やはりお前はお父さんっ子だったけど母さん似だな。
いつも俺とばかり遊びたがって、
妻がよくいじけてたっけ。
けど迷子になった時は妻と抱き合って泣いて……
あぁ、昨日の事のように鮮明に思い出せる。
……いかん……俺まで釣られて泣きそうだ……
うん……これでもう、悔いはない。
黒服の方、どこへなりと俺を連れて行ってくれ。
え、ちょっと、貴方まで泣かないでくださいよ。
これじゃ必死に涙を堪えた俺が馬鹿みたいじゃないですか。
……さぁ、そろそろ行きましょう。
妻と娘は、抱き合って泣いている。
間に黒い額を挟んで。
二人とも……幸せにな……
その日、式場の鐘がいつもより大きく鳴り響いた。
【解説】
語り手であるお父さんはすでに死んでいる。
黒い額は遺影。
あの世に逝く前に、
娘の晴れ舞台だけでも目に焼け付けたかったお父さんのお話。