これは服役中のある男が、
出所直前に妻に送った手紙です。
======================
君のえがおに
いつの間にかひかれていった
絵に描きたくなるほど
桜の花がにあう君
ずっとここにいるわけいかない
あのころに戻れるならば
また旅をしに行こう
くたくたになったって
さんさくしに行こう
何でもないはなしに華をさかせ
手に手を取りあって
ひとつになっていこう
エンディングにはさせない
どんなに道がけわしくとも
おまえにだけ愛をささぐ
一
===========================
男は数週間後出所し妻との再会を果たすが、
その数ヵ月後に不慮の事故で妻を亡くしてしまいます。
服役前に娘を失っていた男は
とうとう独りぼっちになってしまいました。
今日も娘の墓前に手を合わせ
仕事に向かう男なのでした。
【解説】
手紙の一番下に
『一』とある。
これは漢数字の一であり、
「にのまえ」。
つまり、「に」の前を読んでいくと。
「お間(ま)絵(え)がころしたしし手(て)つグなえ」
つまり、
「お前が殺した、死して償え」
となる。
この弾性が服役中なのは、
娘を殺した罪によるものだろう。
しかし、男は無実。
本当は妻が娘を殺したことを知っていた男は、
復讐の機会を伺っていた。
娘の仇と自分を陥れたことへの復讐を。
この手紙は
実は妻ではなく、殺された娘に当てたもの。
だから、所々ひらがなになっている。
最後に『娘の墓前』と書かれているのは、
妻の墓はないということ。
語り手が妻を殺し、
墓を作らなかったから。