駅前の雑踏の中、
俺はベンチに腰掛け行き交う人を
ただ眺めながら人を待っていた。
すると、一人の男性が真っ直ぐ俺の方に歩いてきた。
歳は30ほど、
中肉中背でサングラスをして杖をついている。
男は俺の前で立ち止まり、
バス停の場所を訊ねてきた。
俺は指差してこう言った。
「あの交差点を右に曲がった所ですよ」
すると、男は頭を横に振ってこう言った。
「すいません、私、目が見えないんですよ」
【解説】
男性は目が見えないはず。
にもかかわらず、
語り手が音を立ててもいないのに
語り手がその場にいるとわかり、
真っ直ぐ語り手の方に向かってきた。
この男性は
実は目が見えているか、
もしくは「何かが」見えているのだろう。
この違和感は
普通に過ごしていたら気づかない程度の気づかんだから、
何か悪意を持って近づいてきたのだと考えると恐ろしい。