目を覚ますとそこは病室。
いきなりこんな所にいるなんて、
ビックリどころの騒ぎじゃない。
少し頭を落ち着かせ、ゆっくり考えた。
研究室で仕事をしていて…
そうだ、大事な資料の作成中だったんだ。
で、急に目眩がして…
そこから思い出せない。
ってことは…俺は倒れたのか?
ここ最近でそんな兆候は見られなかったが。
しばらくすると、医者が入ってきた。
何か険しい顔つきだな…
俺は医者から全てを話された。
どうやら腸内に悪性のバクテリアが繁殖したらしい。
しかも余命は三日。
こんな展開、急すぎる。
何が何だか分からなくなって、
俺は病室を飛び出した。
気分転換に街でも歩こう…
辺りはすっかり落ち着き、
空の向こうでは夕日が綺麗に揺らめいている。
「そこのお前さん、何か困っているようだね」
いきなり話し掛けられ、
俺は後ろを振り返った。
小汚ない老人が、
怪しげな瓶を持って佇んでいる。
どこか懐かしい感じがする…
「黙ってこれを持っていきなさい。
体内のバクテリアを殺す薬だ。
夜に飲むといい。楽になるぞ…」
俺は驚いた。
何故この老人は、
俺が病気にかかっている事を知ってるのだろうか?
しかし、今はそんな事は気にならなかった。
藁にもすがる思いで受け取った。
浮かれ調子で病室に戻り、瓶を開けた。
急ぎすぎたのか中の液体が飛び、
病室に置いてある植木に数滴かかってしまった。
まぁいい。
これで病気が治るなら
喜んで全部飲み干してやる。
ゴクッ……ゴクッ……
さて、今日は早めに寝よう。
明日が楽しみだ。
誰かの声が聴こえる…
もう少し寝かせてくれよ…
「ー〇〇さん!〇〇さん!?起きてください!」
ダメだ、全然起きない。
…ん?
植木…もう枯れてる。
新しく取り換えなきゃ…
【解説】
老人が渡してきた
『体内のバクテリアを殺す薬』
によって悪性のバクテリアだけでなく、
良いバクテリアまで殺してしまった。
バクテリアがなくなると
人も植物も死んでしまうため、
語り手は死んでしまい、
植物も枯れてしまった。
また、薬を渡してきた老人は
語り手が『どこか懐かしい感じがする…』と言っているように
以前に会ったことがある。
老人は語り手の実験台にされてしまい、
失敗したか何かで一気に老け込んでしまい、
老人のように見えてしまったのだろう。
そして、その復讐として、
語り手に薬を渡した。
語り手の反応からして
語り手が過去に作ったものでもなさそうだし、
一体誰が作ったものなのかは謎。
語り手に復讐するために
語り手に気づかれないように病気にさせ、
自分で作った薬を与えるという自作自演だったのかもしれないが…
薬を作れたりするのであれば、
もっと別のところで発揮してもらいたいものである。