『そこのスチュワーデスさん!席を変えてちょうだい!』
そう叫んだのは、
まるまると太った白人女性だった。
『どうかなさいましたか?』
とスチュワーデスが訊ねた。
白人女性はこう言った。
『あなた分からないの?
隣が黒人だなんて迷惑だわ!
私は黒人の横になんて座りたくないのよ!
分かったらさっさと席を変えてちょうだい!』
女性のとなりでは、
黒人男性が憮然とした顔をしている。
『かしこまりました、少々お待ちください。
空いてる席を確認してまいります』
そう言ってスチュワーデスは早々に立ち去った。
機内はざわざわと不穏な空気になった。
しばらくして、
スチュワーデスが戻ってきて、
こう告げた。
『お客様、
ファーストクラスが1席空いておりましたので、
そちらにご案内いたします。
本来はこういうことはできないのですが、
となりの席がこんな人ではたしかに迷惑だろうと、
機長が特別に許可しました。
さ、どうぞこちらへ。』
乗客は、みな拍手でその客を見送った。
【解説】
ファーストクラスに案内されたのは黒人男性の方。
黒人男性は拍手で暖かく見送られた。
白人女性が『迷惑な人』だったから。
この白人女性がやっていることも恐ろしいけれど、
乗客がみんなで拍手するのも恐ろしくないだろうか?
白人女性を擁護するつもりではないけれど、
1対多の状況を作った乗客たちもまた恐ろしい。
拍手だけは心の中だけで留めてほしい。
自業自得といえばそれまでと言えばそれまでなのだが…