夜、私は車を走らせていた。
助手席に妻、後部座席には今年で四歳になる愛娘を乗せて。
娘は寝ている。
妻が言った。
「ねぇあなた…そういえばこの辺って確か、
年に数百人の人が飛び下り自殺している崖の近くよね」
私「あぁ…そういえばそんなこと、
この間観たテレビでやってたなぁ」
妻「幽霊とか出そうで怖いわ」
私「そうだな。さっさと行ってしまおう」
そんな話をしていると、
車の前に大きく両手を振りながらある女性が飛び出した。
私はいきおいよくブレーキを踏んだ。
車は止まった。あぶない。人を引きかけた。
そんなことを思っていると、
その女性は運転席側の窓をノックした。
「あ~、良かった~!
マジで人来ないかと思って~!
超ビビった~!」
と女性は言った。
私「どうしたんだい?
こんな時間に、こんな場所で」
女性「聞いてくださいよ~。
カレシが~、俺と一緒になってくれないなら一緒に死んでくれ!!
とか言ってこんな所に連れてこられて~。
マジ迷惑なんですけど~って感じで~。
やっとこさ必死こいて逃げて来て~。
あっ、そうだ。良かったら乗せてくれませんか~。
てか、マジお願いします」
私「あぁ、いいよ。大変だったね。後ろにどうぞ」
女性「マジ感謝っす!!…あっ!!子供さん寝てるんですね~」
そう言いながら、彼女は後部座席に乗った。
私は彼女が乗ったのを確認したのち、また車を走らせる。
女性「いや~、マジ助かりました。
ところで何処に行くつもりだったんですか~」
私「ここからだとそう遠くない所だよ」
女性「へ~。そうっすか~。
それにしても娘さん。全然起きないっすね~」
私「あぁ。娘は起きないよ」
【解説】
語り手の
『あぁ。娘は起きないよ』
という言葉から
娘はもうすでに死んでいる。
語り手の目的は自殺か娘の死体を埋めるか…
妻が
『そういえばこの辺って確か、
年に数百人の人が飛び下り自殺している崖の近くよね』
と言っているため、
死体を埋めようとしているのか…
もしくは、妻も自殺するということを知らないのかもしれない…
どちらにせよ、
『やっとこさ必死こいて逃げて来て~』
と言っている彼女は
せっかく逃げてきたのに
これからまた大変な目にあってしまいそうである…