そうか、もう七夕なんだな。
近所の寺に笹が立っていて、
そこにたくさんの短冊がぶらさがっている。
今年はどんな願い事があるのかな?
つっても、どうせ毎年たいして変わんないけどな。
なになに…なんだよ、
くだらねー願い事ばっかじゃねえか。
そういえば、こういうとき、
必ず一人はいるんだよな。
「ここにある全ての願い事が叶いませんように」
とか書く性格のひねくれた奴が。
ここにある全ての願い事なら、
その願い事も叶わねーじゃんって話。
でも、そういう類いの願い事はこの笹にはないみたいだな。
んじゃ、俺が書くとするか。
え?俺もけっこう性格ひねくれてるんだよね、実は。
えーと、ここにある…全ての…願い事が…かないませんように…
ただし…この短冊に書かれた願い事は…例外…っと!
よし、これで完璧だ!
俺様にヌカリはねーぜ。
さて、これを吊るして…
ぼわんっ!
うわっ!なんだなんだ?
「ワシはこの神社に昔からおる神様じゃよ。
毎年気まぐれに出てきては、
願い事のうちの一つを叶えることにしておるんじゃ。
お前の短冊がちょうど100枚目じゃったから、
今年はお前の願い事を叶えることにしようぞ」
はあ?神様とかうさんくせー。
しかも、こんな悪い願い事叶えちゃっていいわけ?
「ワシは気まぐれなんじゃ。ふぉっふぉっふぉっ」
マジかよ…神様っつーより悪魔じゃねーかこれ…
まあいいや、
どうせここにある願い事くだらねーのばっかだからな。
「今から10分かけてお前の願い事を叶えていくぞ。
その間にもう一度ここにある短冊を読み返すがいい。
やっぱり願い事を叶えないでくれ!ということであれば、
10分以内にワシを止めることじゃ。
10分経った後では、どうにもできんからな。
さあ、行くぞ」
こりゃガキの字だな…
「ぷり○ゅあになれますように」
だと?笑っちまうぜ。
「○○高校に合格!」
願い事してる暇があったら勉強してろっつの。
「○○が欲しい!」
そりゃ笹じゃなくて
クリスマスツリーに吊るさなきゃダメだ。
「小遣い○○円アップしてほしい!」
不景気だからなんともな。
「○○君とこれからもずーっとラブラブでいられますように」
リア充爆発し(ry
「世界征服(笑)」
うおっ、(笑)じゃねーよ。
こんな願い叶えてたまるか。
あー、神様のじいさん、いいよ。
俺の願い事叶えちゃって。
ここに書いてある願い事、
しょーもねーのばっかだもん。
と、そろそろ10分という時に、
俺は最後に細かい字でビッシリと埋め尽くされた短冊に目を留めた。
そこには、
「この世から事故や殺人がなくなりますように。
もう誰も事故で死んだり、人に殺されたりしませんように。
もう誰も、悲しまないように。
もう誰も、苦しまないように。
もう誰も、傷つかないように…」
俺はボーッとその願い事を見つめてしまい、
気がついたら10分が経過してしまっていた。
この悲痛な願い事が叶った方がよかったのかもしれないな。
まあ、手遅れだけど。
俺は自分の書いた願い事をちょっぴりだけ後悔したが、
この世なんてそんなものだ。
事故もある、殺人もある。
「さて、ではワシはそろそろ帰るとするかの。また来年!」
そう言って、神様と名乗る男は消えていった。
ま、たかだか100人の願い事が叶わなかったくらいで、
天変地異が起こるわけじゃねーやな。
そもそも、願い事なんて気休めだしよ。
俺はきびすを返し、自宅へと向かった。
そのとき、ジリリーン!ジリリーン!
あ、俺の携帯電話の着信音、
黒電話なんだよね。笑
これ使ってる奴いる?
誰だろう。
ダチか?
あ、ちげえ。お袋じゃん。
うわっ、やっべ、もう夜の7時か。
急いで帰んねーと、
また大目玉くらっちまう。
ピッ
「もしもし?おふくろ?
俺今から急いで帰っからさ、
夕飯抜きは勘弁してくれよな………
えっ?もしもしー?おふくろー?」
【解説】
『ここにある全ての願い事が叶いませんように』
という願いが叶ったために
『この世から事故や殺人がなくなりますように。
もう誰も事故で死んだり、人に殺されたりしませんように。
もう誰も、悲しまないように。
もう誰も、苦しまないように。
もう誰も、傷つかないように…』
という願いは叶わなくなった。
つまり、
この世から事故や殺人やがなくなりますように
→ 一生事故や殺人がなくならない
もう誰も事故で死んだり、人に殺されたしませんように
→ 誰かが事故で死んだり殺される
もう誰も、悲しまないように。
もう誰も、苦しまないように。
もう誰も、傷つかないように…
→ 誰かが傷つき悲しみ苦しむ
ということに。
その結果、
語り手の家族もまたその犠牲になってしまった。
『ここにある全ての願い事が叶いませんように(ただし、この願い事は例外)』
なんてひねくれたことを書いてしまうと
実際にそれが叶ってしまうと恐ろしいことになってしまうことに。
一個は世界平和とかを願うことが書かれていたりするから。
このお話のように叶うことなんてことはないけれど、
こうやって叶えられたら願い事によって意図していなかったことが起こる可能性があるので、
完璧に願い事が叶うというのも恐ろしいこと言えるかもしれない。