俺が小さい頃に母親は出て行った。
親父は酒に酔うと暴力振るう糞野郎だった。
寂しく1人で過ごす日々の中で
俺は優しかった母親が帰ってくる事だけをひたすら願っていた。
そして16歳の頃、
付き合っていた彼女に子供が出来て
親父と大喧嘩。
地獄に堕ちろ糞野郎とだけ言って家を出た。
あれから10年…
結婚して家族を作った俺の元に
叔父から電話がきた。
親父が危篤状態になり
余命1ヶ月らしい。
俺は病院に行き親父に会った。
久しぶりに会う親父は
思い出よりとても小さかった。
そんな親父のビデオレターを
叔父から貰った。
『剛、もう何年も会ってないな。
そういや結婚したんだってな?おめでとう……
あぁー!本当にダメな親父だったなぁ~!
うん。孫の顔も見てねーや…。
やり直せるならやり直したいけど、
父さんもう長くないみたいだ…
もう何年も会ってないけどお前の顔忘れた事無いよ。
父さんの子になってくれて本当にありがとう…
ずっとずっと幸せにな…』
見終わった瞬間涙が溢れた。
なんだかんだ言って
月末になったら色々連れてってくれたよな。
親父の飯マズかったけど好きだったよ…
酒…やめてたよな?気付いてたよ?
…腕相撲まだ勝ってねぇしさ…まだ死ぬなよ…
俺達の子見て欲しかったよ……死ぬなよ親父…!
…親父が死んで1週間。
夢に神様が出てきて、
願いを叶えてあげるって言われた…
そしたら母さんが帰ってきた。
今更願いが叶ったんだ。
結局父さんに恩返し出来なかった分、
ちゃんと母さん大事にするからな…。
俺は久しぶりにビデオレターを見た。
『剛、もう何年も会ってないな。
そうい…結婚しダ…だってな?オメデトォォォオ……
ジジ…
ア゛ァァあ゛ァァァァァー!死にたグねェーヨォォォオォー!!!
タズケッ!!!…足ツカッッ嫌ッ…ギャァァァァァァァァ!!!』
【解説】
神様は夢に出てきて
母さんが帰ってきてくれる願いを叶えてくれた。
しかし、実は神様は
家を飛び出す時に言った
「地獄に落ちろ」という言葉まで叶えていた。
そのため、父親は地獄に落ち、
その時の様子がビデオレターに刻み込まれていた。
『足ツカッッ』
っていうのは、
足を掴まれた状態だったのだろう…
想像するだけで怖ろしい…
母さんが帰ってきた時は
夢に出てきた神様。
父親を地獄に落としたのは
神様は出てこず、言葉だけ。
『死ぬなよ親父…!』
という言葉は叶えてもらえず。
神様はかなり気まぐれらしい。
でも、内容はどうあれ2回も願いを叶えてもらえるとか、
この語り手はどんな徳積みをしたのだろうか…