俺は三週間前に今のアパートへ越してきたばかりだ。
交通の便がよく、日当たり良好、
3LDKなのに家賃は激安という掘り出し物の部屋だった。
そんな部屋がなぜ簡単に借りれたのか、当然理由がある。
俺が借りた部屋は3階突き当たりに位置するのだが、
その隣の部屋が色々と曰く付きなのだ。
入居前に大家から聞いた話だと、
数年前に父母と子供二人の四人家族が住んでいた部屋なのだが、
おそらく生活苦を原因に無理心中。
その翌週、
誰もいないはずなのに部屋の鍵が開かなくなり、
カーテンも閉めきられていたらしい。
最初は誰かが不法侵入しているのでは、
と強引に開けようとしたりカメラで監視したりしたらしいのだが、
ドアや窓はびくともせず、
一ヶ月以上人が出入りした形跡はなかった。
日が経つにつれ、
『あの部屋の中をカーテンの隙間から覗くと死ぬ』
だの
『ドアが開いているのを見たら神隠しに遭う』
だの、根も葉もない噂が流れ始めた。
不吉に感じた両隣に住んでいた住人は引っ越してしまい、
それ以来入居者がいなかったとのことだ。
俺も心霊の類が怖くないわけではないのだが、
こんな良物件をみすみす見逃すのは勿体ないだろう。
霊現象さえ起こらなければ住みよい場所だし、
慣れるまでの辛抱だ、なんて思っていた。
ある日のこと、
友人が俺の部屋で映画を見よう、
と訪ねてきた。
友人も隣の開かずの部屋の噂は知っているが、
コイツはそういう危険なことに首を突っ込みたがる好奇心旺盛な奴なのだ。
その日彼が持ってきた映画も、
井戸やテレビ画面から幽霊が出てくる物だ。
『空から女の子が降ってくるご時世だし、
テレビから女性が出てくるのもありだろ?』
なんて話してたが、
これ、ホラー映画だろ?
映画も終盤に差し掛かった頃、
友人がベランダを見て急に立ち上がった。
「おい!双眼鏡あるか、双眼鏡!」
俺にそう催促しだした。
集中力をぶち切られた俺は、
しぶしぶ指示通りに双眼鏡を出して渡した。
友人はバタバタとベランダの窓を開け、
手摺りに顎を着けて双眼鏡を覗いた。
一体何をしてるんだ、
と思いながら向かいのマンションを見ると、
同じ階でカーテン全開の部屋があった。
部屋の奥に見える三面鏡から、
たぶん女性の部屋だろう。
何の騒ぎかと思いきや、
ただの覗きかよ。
呆れながらも、ほどほどにしとけよ、
と忠告したが返事が無い。
突然、
友人は低く短い呻き声を上げ、
その場に倒れた。
声を掛けながら揺するが、
反応はなく急速に身体が冷たくなっていく。
俺は友人の首にできた締め跡に気付き、
慌てて部屋から逃げ出した。
【解説】
友人は三面鏡越しに隣の家の中を覗いてしまったため、
死んでしまった。
『カーテンも閉めきられていた』
と書かれているが、
『あの部屋の中をカーテンの隙間から覗くと死ぬ』
と言われていることから、
少し隙間があったのだろう。
心臓麻痺とかではなく、
『友人の首にできた締め跡』
とのことなので、
語り手が殺したと思われないだろうか…。
語り手としてはこの後も恐怖となりそうである。