これは元カノA子から聞いた話。
A子が物心つきはじめたころのこと。
夕方、母が食事の支度をしている間一人で遊んでいると、
洗濯機からにゅっと手が伸びていたという。
手はA子に向けておいでおいでをしている。
A子は興味津々で近づくが洗濯機の口には背が届かず、
中を見ることはできない。
手はにゅっと突き出たままで、おいでおいでをしている。
そのうち、洗濯機の口のほうから
「A子ちゃんはいい子だね、
遊んであげるから玄関から踏み台を持っておいで」
と男の声が聞こえた。
A子は言われるがまま、
一生懸命踏み台を運びそれに登ると洗濯機の中が見えた。
洗濯機には水が張っており、手はすでになかった。
しかしA子は気になって仕方がない。
そのまま上体を傾け洗濯機の中身をさらに覗こうとしたとき、
祖父に止められ抱き抱えられた。
祖父と母にこっぴどく叱られ、手の話は出来なかったが、
A子はそれからしばらくの間、洗濯機には人が入っており、
洗ってくれているものだと考えていたとか。
それから二度と手を見ることはなかったという。
【解説】
洗濯機の中に妖怪や幽霊の類のものがいて、
A子を誘い込み、溺死させようとしていた。
と考えると、そのままの内容になってしまう。
ここからちょっと視点を変えてみたい。
正直、妄想の範疇であるので、
それでも良ければ読み進めてほしい。
この話は
『A子が物心つきはじめたころ』
の話である。
つまり、幼少期。
幼少期というのは記憶が曖昧なもの。
この頃の記憶として、
両親と話がかみ合わないことも往々にしてある。
つまり、この記憶というのは
周りの大人たちによって
「作り上げられた記憶なのではないか」
ということである。
今回の話が作り上げられた記憶だとすると、
本当の出来事はどうだったのか?
実は祖父は助けようとしていたのではなく、
祖父が抱えてA子を洗濯機の中に
突き落とそうとしていたのではないだろうか。
しかし、これがバレてしまい、
祖父はA子を助けようとしたことにした。
A子が見た手の話は
祖父によって書き換えられた記憶なのかもしれない。
「おじいちゃんがそんなことをするわけない!」
という思い込むために
記憶を書き換えられることもあるのだから。
などと妄想してしまう。
自分の記憶は意外と頼りにならないものである。
長年信じていた記憶が偽りのものであったと気づいた時は
自分の全ての記憶に疑いの目をかけてしまう。
果たして、持っている記憶は本当に正しいのだろうか?
もしかしたらその記憶は
他人の手によって作り上げられたものかもしれない。