「それにしても、あなたS君と付き合い始めたってだけで
女を敵に回してるっていうのに…ちょっとは自覚持ちなさいよ」
「あはは、この連休は彼と別荘地で二人きりなんて、皆にバレたら殺されるかもね」
「まったくもう…」
「しかも避暑地だから、夏が過ぎたらもう誰もいないの!
いいよぉ、二人だけの世界って感じ?」
「もうシーズンオフみたいね、うるさいくらい鈴虫鳴いてるのが聞こえてるわよ」
「あ、聞こえる?そうなのよ、そっちはまだでしょ?ここはもう秋よ」
「まぁね…ところで、変な人とか熊とか気をつけなさいよ」
「大丈夫だって、携帯も通じるし」
「あ、ちょっとまって背中かゆい…
ごめん、片手包丁でふさがってるの」
「ごめん、これから料理するところだった?」
「まぁそんなところかな、いいの、もう半分は済んだから」
「忙しいときに電話しちゃってごめんね、
なんか彼の帰りが遅いから寂しくなっちゃって」
「いいのいいの、じゃまた後でね」
【解説】
鈴虫の鳴き声はかなりの高音で周波数が大体4500ヘルツ。
一方、携帯やスマホの周波数は300ヘルツ~3400ヘルツなので、
電話から鈴虫の鳴き声は聞こえることはない。
つまり、この電話の相手は、
電話を通じて鈴虫の鳴き声を聞いたわけではなく、
主人公の近くにいて実際に鈴虫の鳴き声を聞いている。
『あ、ちょっとまって背中かゆい…
ごめん、片手包丁でふさがってるの』
『なんか彼の帰りが遅いから寂しくなっちゃって』
から、電話の相手は彼を殺すために主人公の近くまで来た。
そして、
『もう半分は済んだから』
『じゃまた後でね』
ということから、
これから主人公を殺しにいくところである。