「あ、幽霊だ」
「えっ、お前霊感とかあんの?」
「ああ、幼い頃からそういうのが見えてさ、こういう風に町を歩いてると案外見かけるもんなんだよ」
「へえ、難儀だな」
「あ、ほらあそこの公衆トイレ。首を吊ってる男がこっち見てるよ」
「うへえ、わかんねーけどこえー」
「お、あそこには電信柱の影から赤いワンピースの女がこっち見てる。裸足だよ。」
「おいおい、わからないから別にいいけど、怖いよ」
「わり、調子に乗りすぎた。…あ」
「どした?」
「いや、ほら、あそこの公園の噴水んトコに。ナイフ持ってクルクル回ってる幽霊がいるよ。」
「あ、こっち来た。」
【解説】
『あ、こっち来た。』
これは霊感がない人の方の言葉。
つまり、
『ナイフ持ってクルクル回ってる幽霊』
ではなく、
『ナイフ持って獲物を探している通り魔』
と言ったところだろうか。
霊感がある方が幽霊だと思っているのであれば、
こっちに来てもそこまで驚かないのかもしれない。
幽霊が見えていても、
何もされていなかった可能性があり、
実際に幽霊を見ても落ち着いているためである。
しかし、霊感がない方は幽霊を見たことがないため、
ナイフを持った人である、と認識しても良いものである。
『あ、こっち来た。』
と、なんと落ち着いていることか…。
自分にも幽霊が見えた!と思っていたのだろうか?
ナイフを見てここまで落ち着けることが
なんとも不思議である。
こっちに向かってきたということは、
獲物として捕らえられたということ。
早めに逃げなければ次の日の新聞に
載ってしまう可能性がある…。
それにしても、
ナイフをむき出しにしたまま歩いていたら、
すぐに通報されると思うんだけどなぁ…。