俺の、妹が死んだ。
二人の妹のうち、姉の方。
いつものように、大学へ行くと行ったきり、妹は戻らなかった。
……トラックに撥ねられて、交通事故死。
犯人はすぐに捕まったけど、それで遺族の俺の気持ちが治まるわけじゃない。
二人の妹は性格は正反対だったけど、どっちも凄く可愛くて。
そんな妹の一人が、突然この世からいなくなって……俺は毎日、悲嘆にくれていた。
でも、妹には婚約者がいた。
Kっていう青年で、彼の嘆きようは俺の比じゃなかった。
Kは、死んだ婚約者、つまり俺の妹に会いたがって、
彼女の遺体を引き取ると色々な研究を始めた。
蘇生技術を初めとする膨大な医学、それが無理なら錬金術、黒魔術に没頭していき、
彼女に再び会いたいがために心霊学の知識も仕入れた。
この前、Kの家に久々に行って彼に会ったんだけど、彼はゲッソリとやつれていて、
でも目だけは怖いくらいギラギラしていた。
あいつの部屋も、滅茶苦茶だった。
生贄に使ったんだろう動物の虐殺死体やら、
周囲に蝋燭が並べられた血で描かれた魔法陣やら、
雑多なグロテスクなものが散乱していて、
とてもマトモな神経を持った人間の部屋とは思えなかった。
その時、Kは言っていた。
「科学や錬金術、魔術や心霊術を融合させた俺の理論を実践して、
やっと、あいつの魂をこちらの世界に呼び込むことが出来たんだ。
でも、それだけじゃ駄目なんだ。魂だけじゃ……。
あいつの身体は、修復不可能なほど滅茶苦茶になっていて。」
でも、ある日Kから俺に吉報が届いた。
死者の魂と肉体を定着させる画期的な手法を思いついたらしい。
彼の声は歓喜に震え、上擦っていた。
「またあいつに会えるんだ。あいつを生き返らせてやることが出来るんだ!!」
と。
だから、是非俺と妹に自分の家に来て欲しいとまくし立てていた。
特に、妹には何が何でも来て欲しいとのこと。
きっと、妹に一刻も早く死んだ姉に会わせてやりたいっていうKの心遣いなんだろう。
俺は思わず涙ぐんだよ。
【解説】
『あいつの身体は、修復不可能なほど滅茶苦茶になっていて』
『死者の魂と肉体を定着させる画期的な手法を思いついたらしい』
『特に、妹には何が何でも来て欲しいとのこと』
亡くなった妹の身体は修復不能。
魂と肉体を定着させる画期的な手法を『思いついた』
(実践したとは言っていない)
妹には何が何でも来てほしい。
つまり…生きている下の妹の身体を使って、
亡くなってしまった妹を生き返らせようとしている。
その場合…下の妹の魂と入れ替える形となるだろう。
つまり下の妹の魂がなくなってしまう。
愛する人のためなら、
他の人の犠牲は関係ない、ということだろう。
それにしても、語り手のことまで呼ぶということは、
Kは亡くなった妹を生き返すためなら、
今生きている下の妹を犠牲にするのは当然、
と、でも思っているのだろうか?
どちらの妹も好きな語り手であれば、
下の妹が犠牲になることに怒り狂うだろう。
Kは愛した婚約者のために視野が狭くなっているのだろう…。
何かに没頭すると常識的な判断すら失われる…ということだろうか。