『イジメ』のアレンジVer.
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俺の名前は西藤匠。
俺に対してのいじめは生易しいレベルじゃなかった。
まず、学生時代は男子だけでなく
女子にまで陰湿な嫌がらせをされていた。
特に羽瀬川夏奈って女子は
俺の学生ライフを最も狂わせた人間だったな。
クラス全体にハブられて、
ぼっち状態の俺に罵るような言葉を四六時中浴びせ掛けてきたし、
下校の時はおろか
登校の時まで自宅の前でわざわざ待ち伏せをして粘着してくる徹底ぶりだった。
男子連中から弁当を隠されて腹を空かせていた時なんか、
自分の弁当を無理矢理俺に食わさせたくせに
「礼をしろ」
とか言い始めて、
俺の唯一の安息日である休日に
そいつの買い物の荷物運びをさせられたこともある。
高校を卒業。
無事大学に進学してやっとイジメから開放されたと思ったら、
同じキャンパスにそいつも入学していた事を知った時は目眩いがしたよ。
偏差値の低いクラスのメンバーが
誰も入れないような難関大学に死ぬような思いをして入ったというのに……
「あら、奇遇ね」
とか言いながら
意地悪く笑ったあいつの顔は今でも忘れられない。
結局、社会人になってからも
その女は執拗に俺をイジメてきた。
大学4年時。今度こそ確実に逃げ出す為に超一流の企業へ就職すべく廃人のような生活も送ったにも関わらずまたしても
「あら、奇遇ね」
と言いながら奴は現れたんだ。
ちなみに、
就活シーズンにそいつの顔が死人のようにやつれていたから、
柄にもなく心配してやったら
「お前のせいだ」
と因縁をつけられたのも覚えている。
そういえば大学受験の時も
あいつは一時期もの凄くやつれていたような気もするが……
まあ関係ないだろう。
そして今、
人の家に強引に押し入って
食事は疎か寝床すらも勝手に奪ったその夏奈が
一枚の紙切れを俺に突き付けてきた。
何だかよく分からない細かい文字が沢山書いてあって、
その中にある小さな白枠にハンコを押せと迫ってくる。
嫌がらせに使われるに違いないと踏んだ俺は、
慎重にその枠にハンコを押したらどうなるかを尋ねてみた。
そうしたらそいつは
「あんたの苗字を貰ってやる」
と意味不明なこと言いやがった。
なんだよ苗字を貰うって……
顔を真っ赤にしているけど、
きっとアレは笑いを堪えているのだろう。
ハンコを押したらまた酷い目に合うに違いない。
しかし俺は覚悟を決めてハンコを押した。
そしたらそいつは初めて俺に笑顔を見せて
その紙を大事そうに封筒に入れた……
笑ったときは………可愛いな………
~それから1年後~
俺はそいつにいじめられている。
朝には俺に朝飯を用意して
出掛けるときは腕を組んでくる。
会社では隣のデスクを使いやがって!
昼になると必ず四角い箱を渡してくる。
中にはなかなか旨そうな弁当が………
会社が終わると
俺はそいつの買い物に付き合わされるんだ。
夜には勝手に俺の家に入って
夜飯を作って食べている。
そして寝るときはちゃっかりと俺の隣で寝る。
こいつはいったいなんなんだ!
そういえばこいつの名前ってなんだっけ………
そうだ…………
西藤夏奈だ…………
あれ?
なんで同じ苗字なんだ?
あの紙は………
そうか…………
そういうことだったんだ………
【解説】
婚約届にサインをして、
1年後にようやく結婚したことに気付いた語り手。
それまではずっといじめだと思っていたこということは、
相当根深いほど、彼女のことを恐れていたのだろう。
しかし、結婚したことに気付いた語り手は、
これから幸せな人生を歩み出す…のだろうか?