ちょっと前の話なんだけどさ。
俺の高校時代からの友達で、
すごいオカルト好きの奴がいるんだよ。
そいつ、心霊スポットとか巡るの大好きで、
学生だったころから夏休みとか利用してよく行ってた。
社会人になった今でも、
仕事が休みの日に行ったりしてたみたいだ。
で、そいつからこの前電話があったのな。
時間とかもう0時回ってて、
何だよって思いながら出たわけ。
そしたらそいつ、
妙に興奮した様子でさ、言うんだよ。
「ついに本物を見た」
って。
ハァ?って思いながら聞いてると、
そいつは勝手に何があったかをしゃべり始めた。
そいつはその日もいつものように、
心霊スポット巡りやってたそうだ。
詳しい場所は覚えてない。
確か長野の山奥ら辺っつってたかな?
で、その場所ってのが
昔何かの事件があって潰れたペンションで、
そいつは連れ一人連れてそこまで車走らせたんだと。
建物からちょっと離れた駐車場っぽいとこに車停めて、
一人ずつそれぞれ懐中電灯点けて
そいつと連れはペンションの外観がハッキリ見える位置まで歩いてった。
間近で見たペンションはさすが昔に潰れただけあって、
大分ボロっちかったらしい。
いかにも廃墟って感じだったってそいつは言ってた。
で、暴走族とかそういうのが来て
中荒らさないようにだろうな、
入口とか窓には入れないように板が打ち付けてあったらしい。
でも、そいつはちゃんと事前に、
入れる場所をネットで調べておいたんだ。
そいつは連れを引き連れて、裏口に回った。
裏口の方はすごい急斜面になってて、
でもまわりに柵も何にもなくて。
まあ結構斜面までスペースあるから、
よっぽどマヌケじゃなきゃそうそう落ちたりしないだろ、
ってそいつ言ってたけど。
で、裏口にも板は打ち付けてあるんだけど、
その上の2階にある窓。
そっから中に入れるらしくて、
そいつと連れは誰かが中に入るのに置いてってるらしいハシゴ使って
2階から中に入ったんだよ。
入った中ももう荒れ放題でさ、
散々だったらしい。
誰かが食い散らかしたゴミとか、
スプレーの落書きとか。
それ見て、
今回もハズレかなってガッカリしながら
とりあえず下も見てみようって下降りたんだ。
階段降りて、
玄関の方まで行ったんだけどこっちも酷い有様で。
心霊スポットっつーか、
もうただの廃墟じゃん?
ってくらいの荒れようだったらしい。
それでも一応全部見て回ろうってことになって、
そんで台所まで来た時かな。
ギシ・・・ギシ・・・って、
誰かが階段降りてくる音が聞こえてきたらしいんだ。
言い忘れてたけどそのペンションって木造で、
んですっかり老朽化してるから足音とかすごい響くらしいんだよ。
で、その音聞いて、
そいつらは自分達以外にも誰か来たんだなーってぼんやり思いながらさ、
そのうちろくでもないこと考えたんだよ。
何を考えたかは、
この流れなら分かるよな?
そう、後から来た奴をおどかしてやろうとしたんだ。
そいつらはすぐに足音を立てないようにして入口の脇に隠れて、
懐中電灯も消して別の足音が近付くのを待った。
しばらくするとまたギシ・・・ギシ・・・って音が近付いてきてさ、
ちょうど台所の方へ向かって来るみたいなんだよ。
・・・でもさ、
そいつの連れがその時、
あることに気付いたんだ。
「なあ・・・明かり、見えないんだけど」
言われてみれば、
点けて歩いてればもうとっくに見えてもおかしくない懐中電灯の明かりが、
覗き込んだ廊下からは全く見えない。
「まあ、臨場感出すために点けてないのかもしれないだろ」
そいつはそう強がったけど、
もし手探りで歩いてるならもっと足音も迷うようでもいいのに、
聞こえる足音ときたらまるで迷いがなくて、
一直線にこっちに向かってるんだ。
おまけに、よくよく聞けば足音は、
さっきから一人分しかしてない・・・。
「・・・お前、電気点けないで、
それもたった一人で、こんなとこ歩けるか?」
「そ、そういう度胸試しなのかもしれないだろ・・・」
そうは言ってみたものの、
自分の声が震えているのにそいつは気付いてた。
おかしなもんだな。
心霊現象みたくてわざわざ心霊スポットまで来たはずなのに、
いざ本当にそれっぽいことが起こると
そんなことないって否定したくなるらしい。
そうしてる間にも、
足音はどんどん近付いてくる。
そして
「・・・止まった」
足音は、台所の入口の前で止まった。
こうなるともうおどかすどころじゃない。
おどかすつもりが、
自分達がビビる方に早変わりだ。
静まり返った中で、
自分達の息遣いと心臓の音だけが聞こえる。
時間が止まって感じる中で、
この状況に耐え切れなくなったんだろうな。
連れの方が、
入口の方に向けて懐中電灯を付けたんだ。
・・・けど、いなかった。
そこには何もいなかった。
さっきまでした足音の方に何もいないってのも十分おかしいんだけど、
とにかくそいつらは何もいなかったことに安心してさ、
ホッと息を吐いたわけ。
で、ふっと上を見たらさ。
青白い生首だけの女が、
そいつら見下ろしてたんだって。
それ見て、二人してもうパニックになってさ。
1回何もなかったって安心してた時だから、
なおさらだよな。
急いで台所にある裏口から外に出て、
車も置いてそのまま真っ直ぐ、
転げ落ちるようにして逃げてったって。
まあ、その話を俺は話半分で聞いてたんだけどさ。
どうせこいつの見間違いか、
作り話だろうって。
そしたら、言うんだよ、そいつが。
「お前にも幽霊見せてやるから、一緒に来い」
って。
バカかと、お前。
そんなもん見たんならわざわざ二度も行くなと。
もう十分だろと。
つーか俺を巻き込むな。
そう言ってやったら
「そうか」
っつってそいつブチッと電話切ったんで、
あんまり相手にしなかったから怒ったのかなとか思いながらその日は寝た。
そいつ?
まだ怒ってんのかあれから一度も連絡よこさないけど、
多分またどこかの心霊スポットでも巡ってるんだろう。
いるかも分からない幽霊より、
そういう人間のがよっぽど怖いよ、俺は。
【解説】
『裏口の方はすごい急斜面になってて、
でもまわりに柵も何にもなくて。
まあ結構斜面までスペースあるから、
よっぽどマヌケじゃなきゃそうそう落ちたりしないだろ、
ってそいつ言ってたけど。』
『急いで台所にある裏口から外に出て、
車も置いてそのまま真っ直ぐ、
転げ落ちるようにして逃げてったって。』
つまり、友人はガケから落ちた。
友人からの電話はすでに死んでしまった
幽霊からの電話だった。