あれは、数年前の事だった。
当時、大学生だった私は
親友と二人で某所の心霊スポットへ足を運んだ。
なんでも、
『必ず不思議な事が起こる』というのだ。
「あ~……これが噂の……」
そこは所謂廃病院というやつで、
いかにもといった感じだった。
人気スポットという事もあってか、
病院の前には既に一台車が停まっていた。
私達は早速中に入る事にしたのだが、
「かなり荒らされてるわね……落書きも酷いし」
持参した懐中電灯で照らすと中は荒れ放題だった。
「流石にこれは無いわね」
恐らく前にここを訪れた人達が捨てていったのであろう。
空き缶やら菓子の袋が散乱している。
「確かに……」
「無いわね、これは」
壁の落書きもそうだが、
いくらなんでも酷い。酷すぎる。
「ハァ……」
せっかく涼みに来たというのに
余計に熱くなってしまった。
「まあ良いわ……帰りましょ」
怪奇現象どころか物音一つしないなんて、
とんだデマだ。
それでも『もしかしたら』という淡い期待を込めて
院内を一周してみたが、何も起きなかった。
「やっぱり、噂は所詮噂なのよ。
あ~あ、来なきゃ良かったこんな場所」
つい不満を口にしてしまった。
「来年は違う人でも誘って」
そこまで一息に言って、親友を見る。
彼女はムッとした表情をしていた。
「悪かったわね、もう誘わないわよ。ふんっ」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
帰り道も終始無言のまま、謝るタイミングを逃し、
それきり彼女とは疎遠になってしまった。
心霊スポットなんて、
行くんじゃなかったと今でも思う。
【解説】
『病院の前には既に一台車が停まっていた』
ということは先客がいるはずだが、
『怪奇現象どころか物音一つしない』
と院内を一周しても物音一つしなかった。
仮に先客がいないとしても、
廃病院はかなり音が響くはず。
にも関わらず、
物音一つしないのは不自然。
つまり、聞こえるはずの音が
聞こえていなかったのだろう。
また、この心霊スポットに来たのは
語り手と親友の二人だけのはず。
にも関わらず、
「流石にこれは無いわね」
との言葉に対して、
「確かに……」
「無いわね、これは」
と受けている。
つまり、実は来ていた二人の他に
もう一人何者かがいたことになる。
それは目に見えない何者かもしれないが…
最後に会話文を並べて頭文字を読むと
「あかさたなはまやらわ」となる。
これはおまけ程度。
それにしても、
心霊スポットに二人で行くとか…
個人的には恐ろしすぎて
どれだけ人が多くても行きたくないので、
たった二人で出向けるこの二人がすごいと思ってしまう。