ある夏の日、
私とあの人は一緒にかき氷を買いに、
商店街まで走っていた。
クーラーがまだ普及していなかった頃で、
夏の楽しみといったらかき氷だった。
「おじさん!!かき氷ふたつちょうだい!!」
「はいよ、いつものだね!!」
行きつけのかき氷屋さんは
なにも言わずとも私にイチゴ、
あの人に抹茶を出してくれた。
私たちはお金をはらい、
食べながらいつもの道を帰った。
家に付く寸前で、
あの人は急に走り出した。
何かと思って、私もついて走った。
すると、玄関の近くに、
家を出るときにはなかった綺麗な花が咲いていた。
「これ、つけてあげる!!」
あの人は私にそういって、
髪にさしてくれた。
「ありがとう!!」
私たちは家に入ると、
机にかき氷を置き、
お母さんに見せに行った。
すると、
笑顔になると思ったお母さんの顔は、
青ざめた。
「お母さん、どうしたの?」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫、可愛いね♪」
そういって、
頭を撫でてくれた。
その次の日、
あの人は居なくなった。
急に、熱中症で倒れて、
病院に運ばれたけど、手遅れだった…
そんなこともあったなぁ、と思いながら私は、
学校から家に帰る道を歩いていた。
そして、家に着き、
ふと、玄関の近くに目をやると、
あの時と同じ花が、同じ場所に咲いていた。
その次の日、
私は原因不明の高熱を出し、
この世を去った。
【解説】
語り手とあの人が見つけた花は
憂曇華(うどんげ)と呼ばれる花で、
その花が咲いた家の住人は
近いうちに誰かが亡くなると言われている。
お母さんが青ざめた理由は
憂曇華の花をどこかで見たことがあったから。
そして、何も知らない語り手とあの人は
何も知らないまま亡くなってしまった。