平凡な家庭。
それを何度夢見たことか…
俺は1児の父、妻と
息子家族3人で暮らしている。
息子は間もなく小学生になる。
夕闇の中、会社から帰宅。
家の電気はついていない。
「お帰りなさい、あなた」
「ああただいま」
「先生が見えてるわよ」
「そうか」
「先生」
「あぁこんばんは」
「どうですか?」
「今は寝ていますよ」
息子の寝ているであろう場所を見る。
暗くて何も見えない…
だが電気をつける気にもならない。
先生はまた、来ます、とだけ残し帰った。
「はぁ~…いつまで続くのかしら」
「おい。その話は辞めよう。
…ワインを飲みながらテレビでも見ないか」
「そうね」
…ガシャン
「グラスを落としてしまったわ。
電気をつけなきゃ」
「お母さん…」
今の音で息子が起きたようだ。
「お母さん大丈夫?
はい、ほうきとちりとり」
「ありがとう。
でも電気をつけなきゃ見えないわ」
「じゃあ僕がやるよ。やっぱり不便だね」
「そうね。
あなたに比べたらそうかも知れない」
………
一家を包む沈黙。
「お母さん、お父さん。
なんでそんな悲しい顔をするの?」
「いやだ。悲しい顔なんてしてないわ」
「してるよ!」
…
「新しいグラスを出さなきゃ。
あなた、電気をつけて」
「あぁ」
パチッ
「やっぱり不便なんだね。
明かりがないと何もできないって」
もうこれ以上息子の顔は見たくない。
例え進化の過程であろうとも。
【解説】
息子は暗闇でも見えている。
それが『進化の過程』なのだが、
進化したことによって失われた身体の器官がある。
それが、「目」。
息子の顔には目がない。
だから、
『もうこれ以上息子の顔は見たくない』
と言っている。
途中で出てきた『先生』とは
「研究者」のこと。
進化するということは
周りの人とは異なるということだから、
なかなか受け入れられづらいものだろう…。
果たしてこの息子は
これからどうなっていくのだろうか?