俺は数年前、事故で失明した。
それからというもの、
外出時は常にサングラスを着用するようになった。
俺には彼女がいる。
優しくて可愛い子だ。
ある日彼女と俺の愛車でドライブに行った。
かつて事故にあったあの山だった。
開けた場所で車を降り、
彼女の手作り弁当を食べた。
あまりに気持ちが良くて、
俺も彼女も知らぬ間に夢の世界へいざなわれていった。
気が付くと、
辺りは紅くなり烏が巣へと帰っていくのが見えた。
もうこんな時間か。
それにしても彼女の寝顔、可愛いなぁ…
…ん?俺の車のところ誰か居ないか?
よく見ると車から財布なんかを盗っているようだ。
車に急いで近付くと、
そいつは俺に気付き、
金目のものを持って自分の車に乗り換えて逃げていった。
くそう…楽しい思い出が台無しだ!
幸い相手の車のナンバープレートも覚えたし、
警察に連絡するか…。
「そうなんです、
車に置いていた金目のもが盗まれたんです!
ナンバープレートは〇〇〇〇で…」
「それで?誰がその犯人を見たんですか?」
「俺が!昼寝しちゃって、起きたらそいつが…」
「本当に見たんですかぁ?」
「だから見たって言ってるじゃないですか!
この目でしっかり見たんです!」
そう言って俺がサングラスを外すと、
俺はその手に何かが当たるのを感じた。
─カシャン
この大自然に似合わない軽い金属音が響く。
「18時39分、水野護さん、──の容疑で逮捕します」
【解説】
語り手は失明したと言っているが、
『彼女の寝顔、可愛いなぁ…』
『よく見ると車から財布なんかを盗っているようだ』
『幸い相手の車のナンバープレートも覚えたし』
とばっちり見えている。
語り手は失明を理由に不正受給をしていたとか、
罪から逃れたとか、
何かあったのだろう。
にもかかわらず、
警察に堂々と目が見えてます発言をしたので、
語り手は捕まった。