俺は車に乗るのが嫌いだ。
運転はもちろん助手席に座るのもタクシーに乗るのもだ。
と言うのは数年前、
運転中に事故を起こし危うく命を落としそうになったからだ。
理由は他にもある。
俺には結婚を約束した彼女がいた。
彼女との出会いは俺の大の親友の紹介だった。
しかし結婚ともなるとそれなりの金がいる。
そこで俺は贅沢を一切やめてせっせと貯金にいそしんだ。
高価な装飾品は身に付けず旨いものも口にしない。
中でも車は一番の贅沢品と言ってよかった。
なんせ維持に金がかかる。
乗れば乗ったでガソリン代がいる。
つまり車に乗らないというのはそんな俺の理に叶った、
ある意味ポリシーともいえる。
従って彼女とのデートはいつも徒歩か電車。
だが、彼女は彼女でそれに対して何らの不満も言わず
いつも笑顔で俺に付いてきてくれた。
そしてそんな幸せ真っ最中のある日・・・
例の親友が久しぶりに俺のもとを訪ねてきた。
いっしょに事業を起こさないかという話を持って。
正直、迷った。
だがこのまま安月給のサラリーマン生活を続け節約に励んでいても
貯まる金などたかがしれている。
俺はなんとかして彼女を幸せにしたかった。
いつも我慢ばかりさせているだけに余計にだ。
贅沢とは言わないまでもせめて普通の生活を送らせてやれるように。
そこで腹をくくり
その親友に有り金すべてを預ける事にした。
しかし・・・それから数日後、
何故かその親友との連絡がピタリと途絶えた。
おまけにどういう訳か時を同じくして彼女も姿をくらませた。
これはいったいどういう事なんだ・・・
俺はしばらくの間、パニックに陥った。
だが・・・はたと気がついた時、すべてを悟った。
そう・・・あれほど嫌っていた車にまんまと乗ってしまったのだという事を・・・・・・
【解説】
親友と彼女はグルで
語り手は口車に乗ってしまった。
大の親友だと思っていたのは語り手だけだったか…