ウチの近所に有名な団子屋がある。
味がおいしく、値段も安く、
店主の人柄もよく、大繁盛している。
この街で「団子屋はありますか」と聞いたら、
必ずここを紹介されるだろう。
ある日団子を買おうとこの店に向かっている時、
店の近くの電柱陰でブツブツと独り言をしている
顔の青ざめた男が立っていた。
気味が悪いな、
と思いながら素通りしようとすると、
急に立ちはだかった。
「ここの店主は人殺しだ!俺も危うく殺されかけた!」
そう言い散らして、どこかへ去っていった。
あの、人のいい店主が、
殺しなんてやるはずないじゃないか。
そう思いながらも、
団子を買うついでに店主にその男のことを話した。
すると店主は、呆れ顔でこう言った。
「ああ、あの人か。ちょっと死にかけたくらいで、大げさだよなぁ」
【解説】
男は勝手に団子を喉に詰まらせただけだが、
それを店主が作った団子が固いとか大きいとか難癖をつけ、
あげくの果てに『人殺し』とまで言い始めている。
責任を押し付けてくるクレーマーは恐ろしい。
ただ、最後の店主の言葉の
『ああ、あの人か。ちょっと死にかけたくらいで、大げさだよなぁ』
というのも恐ろしい。
人柄が良いと言われているが、
もしかしたら内側には黒い何かがあるかもしれない。