【天使側の視点】
ある時、私の宿主の人間がこう言った。
「人を殺してしまった………………罪を償いたい……」
あぁ、殺人だなんて、なんて馬鹿なことを。
どうやって償うのか存じませんが、
きっと自首するのでしょう?
ちゃんと、罪を償いましょう。
隣の悪魔が何か言いたげだったので、
私は彼に言いました。
「罪はきちんと償うべきです。
悪魔に耳を貸してはいけません」
しばらく悩んだ後、
彼は償うことに決めました。
彼に良心が残っていて、本当によかった。
【悪魔側の視点】
ある時、俺の宿主の人間がこう言った。
「………してしまった……自殺して罪を償いたい……」
おいおい、自殺だなんて、なんて馬鹿なことを。
何をしたのか知らねぇが、
どうせ些細なことだろう?
いいよ、罪なんて償わなくたって。
天使の野郎が何か言いたげだったんで、
俺はこいつに言ってやった。
「別にバレやしねぇよ。天使なんかの言いなりになるなよ?」
しばらく悩んだ後、こいつは自殺を選びやがった。
ケッ、こんな馬鹿とは付き合ってらんねぇぜ。
【解説】
罪を償うことを勧めた天使が、
結果的に宿主を死に追いやってしまった。
『彼に良心が残っていて、本当によかった』
と言っていることから、
天使としては宿主の人間が生きようが死のうがどうでも良かった。
罪を償うこと。
天使はそれだけを望んでいた。
それに対し、
悪魔は自殺を止めようとしていたが、
耳を貸してもらえず、結局自殺。
結果的に天使は自殺を促したことになり、
悪魔は自殺を止めようとしていたことになる。
天使の
『きっと自首するのでしょう?』
という言葉が
「自首程度で済ませてしまうのですか?」
と言っているようで恐ろしい。