深夜、愛車を走らせていると、
女性に呼び止められた。
女は人気のない路地に立っていて、
近づいていくと、ふわりと手を挙げたのだ。
その手につられるように、
俺は車を止めていた。
近くでみると、髪の毛の長い女だった。
腰の辺りまであるだろうか。
「こんな時間にヒッチハイクですか?」
俺がそう声をかけると
「すいません、道に迷ってしまって……」
「分かる場所まで乗っていきますか?」
「いえ、道だけ教えていただければ大丈夫です」
「どこへ行きたいんですか?」
「花園墓地の近くなんです……」
「こ、こんな時間に墓地ですか……?」
「ええ、近くに知り合いが住んでまして」
俺は薄気味悪さを感じたが、
車から降りると、丁寧に道を教えた。
女からは何故か土の臭いがした。
道を教え終わった俺は、車に乗り込み、
深々と頭を下げる女性を残して走り出した。
と、窓の外を見ると、
もの凄い形相で先ほどの女が走って、
車についてきていた。
長い髪を振り乱し、目をひんむいて、
片手でバンバン!と何か叫びながら窓を叩いてくる。
「うわっ!」
俺は、女のあまりの形相に、
一気にアクセルを噴かして、車の速度を上げた。
突然、
「ぎゃああああああああああああ!!」
と言う悲鳴が聞こえ、
女は背後に見えなくなった。
震える手でハンドルを握り、
俺は家に帰り着いた。
車のドアを開けると、
バサリと音を立てて何かが足元に落ちた。
【解説】
車のドアに女性の髪が挟まっていた。
だから、
『長い髪を振り乱し、目をひんむいて、
片手でバンバン!と何か叫びながら窓を叩いてくる』
という状況に。
そして、最後の悲鳴で髪の毛が抜け…。
想像するとゾッとしてしまう…。