高校に入学してからというもの、
なれない環境からか友達作りが上手くいかず
俺は引きこもりになった。
姉がいるが、
御袋と二人して男勝りでボーイッシュな髪型で
スカートも全く穿かない。
なんで俺だけこんなに根暗になっちまったんだ。
かといって親父に似ているわけでもなし。
父親は社交的で
よく会社の同僚とゴルフに行ったり宴会をやったりして
人生楽しそうだ。
誰からの遺伝なのか皆目見当がつかない。
俺の日課は、
起床→トイレ→ネトゲー→昼飯→ネトゲー→トイレ→夕飯→ネトゲー→風呂→寝る
といった体たらく。
二階の俺の部屋から出るのは、
トイレの時と風呂の時だけだ。
ご飯は母親が毎日二食運んできてくれるから困らないが、
毎回毎回五分くらい説教垂れていく。
いい加減よしてほしい。
風呂はいつも深夜に入る。
家族と鉢合わせたくないからな。
そして毎日湯に浸かりながら、
熱いシャワーで打たせ湯をして
視界を白い湯気で一杯にして簡易サウナを作る。
そうすると、
物理的にも精神的にも更に独りになれるんだ。
友達欲しいなぁとか彼女欲しいなぁとか
外を堂々と歩きたいなぁとか。
そういうことを延々と考える。
今日も考えた。
そしてとうとう思った。
「この生活から抜け出そう!」
俺は決意すると、
まず何をすれば良いのか考えた。
「手始めに身の回りを綺麗にしよう!」
早速風呂場の排水口の掃除を始めた。
長い髪の毛が幾本もカタマって大変だった。
「今日は一応これくらいでいいか」
俺は排水口の掃除を終えると
風呂から出ようとした。
と、
「髭も剃っとくか」
と思い立った。
綺麗に磨かれた鏡を見ながら
親父のカミソリでボーボーの無精髭をすっかり剃ってしまった。
「髪の毛も明日切りに行くか」
俺は軽い足取りで浴室から出るのだった。
【解説】
『姉がいるが、
御袋と二人して男勝りでボーイッシュな髪型』
つまり、二人共髪型が短い。
にも、関わらず
『長い髪の毛が幾本もカタマって大変だった』
この長い髪の毛は誰のもの?
また、
『視界を白い湯気で一杯にして簡易サウナを作る』
とあるのに、
『綺麗に磨かれた鏡』
と、湯気で満ちているはずの浴室内なのに、鏡が曇っていない。
ということは、浴室内には
得体の知れない何者かがいた…?
でも、この語り手
浴室内で急に変わろうと思ったから、
この何者かが良い働きをしてくれたのかもしれない。
そう考えると素敵な存在である。