今日はやたらと暑かったので俺は、
街にあるお気に入りの風呂屋で汗を流してさっぱりさせて帰ろうと思い、
急いで向かった。
辺り一面は白で塗られ、
マーライオンからは絶えずお湯が流れている。
洗い場にはアールデコな鏡があり、
まるで高級ホテルに来たような贅沢感満載の風呂屋…。
頭から爪先まで泡まみれにしてから一気に洗い上げるのが、
俺の至福の一時…仕事の疲れも吹っ飛ぶくらい幸せな瞬間である。
家に帰って間もなく携帯のバイブが鳴った。
彼女からだった。
ん?何だこれは?
そこには何とも不可解なメッセージが目に飛び込んできて、
脳内カオス状態に陥った。
『USOROKEDOTA-ORETTAM とりあえず右からいけばいいよ』
ウソロケドゥータオレッタム?
ああ…もしかしてこの間、
二人でいつか美味しいものを食べに行こうと話していたから、
彼女が行きたい店を選んで教えてくれたんだ…
わざわざ道順まで教えてくれて優しいな…。
ウキウキ気分で俺は灯りを消して寝た。
翌日、約束の時間より早く来た俺は
彼女が言っていた通りに同じ名前の店を探しながら
とりあえず右から入れる道を片っ端から当たったが、
いくら必死に探しても見つからなかった。
ずいぶんスケールのでかいサプライズ仕掛けたもんだなと思っていた矢先、
聞き覚えのある声がした。
『こっちこっちー♪』
一笑千金の笑みを浮かべた彼女が、
しきりに向こうで俺を手招きしていた。
ようやく会えたという嬉しさいっぱいで
俺は彼女の元へまっしぐらに行こうとしたが
次の瞬間、俺はまばゆい光の壁に目がくらむと同時に
強烈な腹の痛みが食い込むように襲いかかってきた。
歩こうにも地に足がつかない。
体が何者かにふわふわと操られてるかのようなイリュージョン状態だ。
やがて俺はそのまま、
身体中に走る痛みに包まれて固く冷たいベッドの上で眠りに落ちていった。
そういや眠りかけた間際に
うっすら見えていた赤く光る小さなメリーゴーランドや、
銀のごついブレスレットをつけてはしゃいでいた彼女はどこに行ったのか…。
一週間後、
俺は久々に目を覚ました。
テレビを見ていたら
彼女と見知らぬ男がお揃いの銀のブレスレットをつけて出ていた。
ショックを受けた俺は思わずスイッチを消し、
言葉を失ったのである。
【解説】
『USOROKEDOTA-ORETTAM』
右から読むと
「MATTERO-ATODEKOROSU」
と、
「待ってろ、後で殺す」
となる。
と、その言葉の通りに語り手は刺された。
『赤く光る小さなメリーゴーランド』は
パトカーのこと。
『銀のごついブレスレット』は手錠。
彼女の犯行理由としては、
『お気に入りの風呂屋』
というのが風俗とかそっち系で、
語り手がそこに通っていることを知り、
彼女の逆鱗に触れたから。
色々とぼかしながら書くこの語り手の方が
考えていることが読み取りづらく怖いのだが…。