わたしは彼に買われました。
彼は私に名前をつけました。
勝手につけないで。
彼は私に触ってきました。
勝手に触らないで
気持ち悪い
彼は仕事が上手くいかないと
私に暴力をふるいます。
投げないで痛いの。
叩かないで。
ある日、
仕事から帰った彼はひどく怒っていて
包丁をもってきました。
こんな所で殺されてたまるものか。
私はそう思い、
いつもは動かさない手足を久しぶりに動かしました。
そして彼から包丁を奪いました。
彼は、それはそれは驚いた顔で
また、怯えた顔で私をみていました。
そして私は彼に
包丁を突き刺しました。
翌日。
ニュース
「自宅でサラリーマンの男が
包丁でさされ殺されました。
部屋の中は密室だったもよう。
奇妙なことに彼の遺体の横には、
服が真っ赤に染まった人形が落ちていたとのことです」
私はまた買われた。
【解説】
語り手は人形である。
『彼』は中古の人形を購入した、
その人形に名前をつけて大事にしていたが、
仕事でストレスが溜まるにつれ
人形でストレス発散をするようになった。
それに耐えきれなくなり
語り手である人形は
手と足を動かして
『彼』を殺した。
そのため、密室になっており、
なぜかまたこの人形は売られ、
そしてまた買われた。
語り手である人形は
『いつもは動かさない手足を久しぶりに動かしました』
と「久しぶりに」と言っているため、
以前にも似たようなことがあった模様。
もしかしたら、またこのような事件が起きるかもしれない。