夫婦はそっと、眠っている愛娘の顔を覗き込んだ。
「本当に可愛いよなぁ」
「ねぇ、天使みたいよね」
「今でも充分かわいらしいけど、
これからどんどんキレイになるんだろうなぁ」
「そうよねぇ。
…白い肌、か細い手足…。
将来の美貌は約束されてるわよねぇ」
「なんだよ、
もうこの子が嫁に行く時のことでも考えてるのかよ」
「うふふ、何よあなた、怖いの?」
「冗談じゃないよ。こんな可愛い子だぞ。
そんじょそこらの男にやれるもんか」
「まったく、あなたったら。
この子だっていつまでも箱入り娘じゃいられないのよ?
馬鹿ねぇ」
幸福な夫婦はニッコリと顔を見合わせて、
そっと蓋を閉めた。
【解説】
眠っている愛娘は
『…白い肌、か細い手足…』
で、すでに白骨化している。
しかし、娘を失った夫婦はその死を受け止められず、
「この子は生きている」
と思い込んで未来を夢見ている。
そんな夢を見て幸せを感じているから
『幸福な夫婦』である。