大好きだった男の子供を産んで、もう一年。
あの頃はカレの女癖の悪さに
ずいぶん泣かされた。
私はどうしてもカレを独り占めしたかったのに、
あの男は他の女の尻ばかり追いかけていた。
ある日とうとうものすごい喧嘩になり、
カレはいなくなってしまった。
妊娠がわかったのはその後だ。
迷ったけど、
結局私はひとりで産んだ。
産まれた子供はびっくりするほど可愛かった。
本当に産んでよかったと思う。
わが子は最近、
まだうまく話すことはできないけど、
私の言うことは分かるようになってきた。
私は絵本を持ってきて、
子供に質問する。
「ワンワンはどれ?」
子供は犬の写真を指差した。
「ニャンニャンはどこかな?」
子供は猫の写真を指差した。
「チュンチュンは?」
子供は小鳥の写真を指差した。
「じゃあ、メェメェは?」
子供は自信満々で
透明な液体の入ったガラスの小瓶を指差した。
【解説】
『メェメェ』
は「目」である。
『ものすごい喧嘩になり、
カレはいなくなってしまった』
の時にカレを殺した。
その彼の目をホルマリン漬けにしていた
ガラスの小瓶を子どもは指差した。
子どもに
「あなたのお父さんの目よ」
とか話しているのだろうか?
そのイメージをすると
ゾッとしてしまう…。