僕はかずき。
僕には足がない。
なんでかって？
ついこの前、
家族旅行に車で向かってる途中に、
パパがハンドル操作を誤って、失ってしまったんだ。
幸いにも、
パパとママとお兄ちゃんは
打撲や骨折ですんだんだ。
僕も足を失ったのはショックだったけど、
それ以上にパパやママ、お兄ちゃん達の方がショックだったみたいで、
家の雰囲気がずっと暗いんだ。
僕にはそっちのが嫌だな…。
「…俺が…。俺があのとき…！」
「あなた…！
そういうことは言わない約束でしょ？」
「そうだよ親父！
そんなこと言ってたらかずきも悲しむよ」
最近いつもこんな感じなんだ。
よし！僕からもパパを励まそう！
「パパ！僕はもう大丈夫！気にしてないよ！
それよりも、また家族旅行に連れてってよ！」
「みんな…。そうだな。
俺がこんなんじゃ駄目だよな。」
パパは僕の変わらない笑顔をみて、
元気を取り戻したみたいだ。
良かった！
「そういえば今日の朝、
かずきのクラスのみんなから、
お花と色紙を貰ったわ。
あの子…みんなの人気者だったみたい。」
そう言うママの目はどこか懐かしそうだった。
「そっか。良かったな、かずき！」
そして、花と色紙が僕の横に飾られた。
【解説】
パパの運転ミスで
語り手のかずきは死んでしまっている。
しかし、かずきは自分が死んだことに気づいておらず、
足だけを失ったと思っている。
（幽霊は足がないから）
家族がショックを受けているのは
かずきの足がなくなったことではなく、
かずきが死んでしまったことによるものである。
かずきもパパを励ましているが、
かずきの声は聞こえていない。
『パパは僕の変わらない笑顔をみて、
元気を取り戻したみたいだ』
これはかずきの顔を実際に見たわけではなく、
遺影に飾られている変わらない写真を見てのこと。
死んだあとはどうなるんだろうか…
幽霊に足はないと言われているけど、
実際にはどうなんだろう…
