オカルト好きの友人から、
こんな話を聞いた。
『友達の友達から聞いた都市伝説なんだけどな?
自宅の玄関前で今から言う呪文を三度唱えて扉をくぐると、
この世界とは全くの真逆なパラレルワールドに飛ばされてしまうらしいんだよ。
そして、
向こうの同じ場所に住んでいた住人がこっちの世界にやってきて、
すり替わってしまうんだと。
どうだ、面白そうな話だろ?』
俺はその時、
こんな馬鹿げた話をひどく真剣に聞いていた。
今の平穏で変わり映えしない生活に、
俺は嫌気がさしていた。
何でもいいから、
非日常的な刺激が欲しかった。
そんな時に偶然舞い込んだのが、
この都市伝説だったというだけだ。
とにかく現状が変わるのであれば、
オカルトだって構いやしない。
そんな気持ちだったのだ。
友人から聞かせてもらった呪文を、
忘れないように何度も頭の中で復唱しながら家路を急いだ。
家に着くと、
玄関前に一切飾り付けのない、
子供の背丈ほどの雪だるまが立っていた。
朝出る時は無かったはずだが……
まぁ今は後回しだ。
俺は玄関扉の正面に立ち、
珍妙な呪文を声に出して三度唱えた。
はたから見たら、
気でも狂ったのかと思われるだろうな。
さて、言われた通りに呪文を唱えたが……
扉は特に変わった様子もない。
早歩きして汗をかいたため、
吹き付ける寒風が身を刺す。
とにかく中に入ろう。
普段と全く変わらない様子・重さの扉を、
俺はくぐり抜けた……
玄関扉を閉め、
周囲を見回す。
狭い玄関、
フローリングの廊下、
その奥に見えるリビングに繋がるドア……
間違いなく、
俺の家だ。
では俺自身に何か変化があったのか?
そう思ったが、
どこにも変わった箇所は見られない。
なんだ、
あの都市伝説はガセだったのか。
とはいえ、
心の隅で「ガセで良かった」と感じている自分もいる。
と、外から雨の降ってくる音が聞こえてきた。
普段通りに帰っていたら濡れてたかもしれないな、
危ない危ない。
それにしても、
ひどい湿気だな……
とりあえず除湿機と冷房付けるか。
【解説】
玄関扉をくぐる前は
『子供の背丈ほどの雪だるまが立っていた』
とあるので、冬
しかし、くぐった後は
『それにしても、
ひどい湿気だな……
とりあえず除湿機と冷房付けるか』
と湿気だけでなく、
冷房までつけようとしているので夏。
『この世界とは全くの真逆なパラレルワールドに飛ばされてしまうらしい』
とあるように、
冬と夏が逆転してしまった。
その家の中に変化はないようだが…
真逆になったのは季節だけか?
それにしても、
この語り手いきなり暑くなったことに疑問に思わなかったのだろうか…?
そういうことに疑問に思わないようにできている…?