ある日私が高校から家に帰ると、
まだ私の他には誰も帰ってなかった。
きちんと鍵を掛けてから、
まずカバンを置きに自分の部屋に戻った。
リビングに行ってテレビでも見ようか、と思って
部屋のドアを開けようとしたが、開かない。
正確に言うと、ドアノブが回らない。
まるで誰かが向こう側で
ドアノブを握りしめているかのように。
私の部屋のドアは鍵も何もついていない。
開かないはずがないのだ。
単に壊れたのかもしれないが、
それよりも先に
「向こう側に誰かいる」
という発想が出てきてしまった。
・・・怖い。
壊れているにしても、
部屋から出られないのは困る。
幸い、私の部屋は一階で、窓もある。
私はとりあえず携帯を持って窓から外に出た。
表に回ると、
ちょうどお母さんが帰宅したところだった。
「お母さん!部屋のドアが…!
あの、もしかしたら人が…」
改めて話そうとすると、
自分でも突飛な思いつきだと
安心より先に恥ずかしさが出てきた。
案の定、お母さんにはまず笑い飛ばされた。
いや、怖かったんだって…。
お母さんと私の部屋に行く。
私はやっぱり怖かったのだが、
お母さんが平気でドアノブを回す。
ガチャ、ガチャと少しひっかかる感じがあったが、
ドアは開いた。
「ほら、やっぱり思いこみだって。古い家だからね~。」
今度大工さん呼ぼうか、
と何度か開け閉めして具合を確かめると、
改めてお母さんは私の怖がりっぷりをおかしがった。
怖いって思っちゃったんだから仕方ないじゃん!
私は恥ずかしさで顔が火照ったので、
窓の鍵を開けて風に当たった。
そりゃ、夕方とはいえまだ明るいんだから、
幽霊も変質者も出ないよなあ…。
【解説】
『私はとりあえず携帯を持って窓から外に出た』
のに
『窓の鍵を開けて風に当たった』
窓を開けて外へ出たのに
窓の鍵がかかっていた。
外から窓を閉めることは簡単だが
外から窓の鍵を閉めることは容易ではない。
となると、やはりドアの外に誰かがいて、
語り手が窓から外に出た隙に
語り手の部屋に入り込んで
内側から窓を閉めたと考えられる。
意外と早く語り手が戻ってきているが、
誰ともすれ違っていない。
となると、
語り手の部屋にまだ潜んでいるかもしれない…
部屋に潜むことが目的だったのか、
それとも他に目的があったのか…
どちらにせよ部屋にいるというのは気持ち悪いし、
いつ何をされるかわからないため恐ろしいものである…。