最近ボクは毎日たけるくんと公園で遊んでいます。
砂場で山をつくったり、トンネルをほったりしていると、
あっというまに時間がたちます。
夢中であそんでいると、学校のチャイムの音がきこえてきました。
「あ。休み時間が終わっちゃう」と、たけるくんが言いました。
ボクが笑いながら「だいじょうぶだよ。まだまだ休み時間はあるよ」というと、
たけるくんも「そうだね」といって、ふたりで笑いました。
ボクたちは、もう学校のチャイムを気にする必要なんてないのです。
またしばらく遊んでいると、
公園のスピーカーから「夕焼けこやけ」が流れてきました。
「5時だ」うす暗くなってきた空を見上げて、たけるくんがいいます。
スピーカーからも「5時になりました。おうちに帰りましょう」と聞こえてきます。
「おうちに…帰りましょう」と、たけるくんがつぶやく。
「ダメだよ。今日は残業の日なんだから」ボクがそういうと、
たけるくんは小さくうなづきました。
すっかり暗くなってしまった公園で、ボクたちはだまってブランコをこぎました。
そうして2時間ほど遊んだあと「また明日」といって手をふって、
たけるくんにさよならを言って家に帰りました。
家に帰ると、妻が青い顔で言いました。
「あなた。同僚の鈴木さんが、ついさっき自殺したって連絡が…」
【解説】
語り手とたけるくんは、
会社をリストラされてしまったサラリーマン。
それを家族に気づかれたくないため、
出社時間に家を出て、
公園で時間を潰している。
『ダメだよ。今日は残業の日なんだから』
というのも、定時の時間を作ったり、
残業の時間を作ったりなどと、
できる限りバレないようにするためだろう。
『同僚の鈴木さん』はたけるくんの事。
語り手と別れた後に自殺してしまった。
妻が「元同僚」ではなく、
『同僚』と言っていることから、
まだリストラされたことには気が付いていないのだろう。
語り手は気づかせないように公園で時間を潰しているため、
その方が良いのだろうが…
今後はどうするつもりなのだろうか。
それにしても、
リストラされたことに気づかれないように公園で遊んでいるが、
砂場で山を作ったり、トンネルをほったりしていれば、
スーツが砂まみれになると思うのだが…
良い大人2人が
スーツ姿で砂遊びをしているのを想像してみると
ちょっと怖いと感じてしまう。