おお、よく来てくれたな!
「何だよ、夜中にこんな場所に呼び出して」
いや実はな、今夜ここで百物語の集まりがあるって話をネットで見てね。
「また、えらく古風な事やってんな…」
まあな。で、いざ来てみると初めて見る顔ばかりだったけど、とにかく始めたんだ。
「それで?」
なかなか怖い話揃いで楽しかったぜ。語りも上手い奴ばかりだったし。
「ふんふん」
気が付くと順番に99話まで語り終え、次は俺の番ってことになったんだ。
「いよいよ最後か」
ところが、口を開いた瞬間、蝋燭の炎が不意に揺らめいた。
するとその一瞬後、周りにいた連中が、煙のように消えちまったんだよ!
「うわ…」
俺はすっかり震え上がってしまって、逃げようとしたんだけどな。
足が石のように固まってて、立ち上がることもできないんだ。
周りからは妙なうめき声みたいなのも聞こえてくるし、もう駄目かと思った。
「で、俺をメールで呼び出したと?」
助かったよ、とりあえず腕は動かせたからな。来てくれて本当にありがとう。
「そうか…まぁ無事でよかったな。で、もう話は済んだか?」
ん?ああ、それだけだ。お前が来た途端に、足も動くようになったし。
「そりゃ良かった。じゃあさっさとこんな所出ようぜ。
ほら、お前の分も懐中電灯持って来たから、そんな物早く片づけろよ」
ああ、そうしよう。
【解説】
『ほら、お前の分も懐中電灯持って来たから、そんな物早く片づけろよ』
『懐中電灯持ってきたから』と言っているため、
『そんな物』とは蝋燭のこと。
『蝋燭の炎が不意に揺らめいた』
とあるものの、消えた描写がないため、
おそらくまだ消えていない。
百物語は全てを話し終え、
蝋燭の火を消して、
真っ暗闇の状態になった時に
本当の怪が現れるとされている。
最後の話は途中で終わったかのように思われたが、
友人の到着により説明したことが怖い話となっている。
つまり、この後蝋燭の火を消すことで、
百物語が完成する。
本当に怪現象が起こるのはこの後なのである。
少し気になるのは、
「」で書かれている友人の話し方である。
『いよいよ最後か』
と言っているが、
友人は百物語を聞いていたわけでもない。
ただ、『99話まで語り終えた』と聞いただけだ。
にも関わらず、
『いよいよ最後か』
という言葉は何かおかしくないだろうか?
また、お礼を言われた後に
『で、もう話は済んだか?』
という一言。
話を終えさせるような口ぶり。
これに『ん?ああ、それだけだ』と
ちょっと不思議に思っているように感じる。
後から来た友人は
どうにか百物語を完成させようとしていた?
もしかしたら、この百物語を仕組んだ人物こそが
この友人だったのかもしれない。