「ママ、今から帰るからね」
「うん、わかったー」
「ちゃんとお留守番してた?」
「うんー」
「ケーキ買って帰るからね」
「うんー、あ、誰かきたー」
「宅急便屋さん?」
「待っててー」
「行かなくていい!」
「おまわりさんだったー」
「開けちゃダメ!」
「もうここにいるよー」
10年後、母とはまだ会えていない。
私から母を奪ったこいつらを、私は許さない。
【解説】
語り手は物心つく前に誘拐され、
犯人に育てられていたため、
その犯人を母親と思いこんでいた。
その犯人は10年経ってもまだ刑務所の中。
10年経っているのだから、
語り手は偽の親子関係だったことは
すでに知っているだろう。
語り手がどのような生活を送っているのかはわからないが、
元の両親に戻されたものの、
そこでひどい扱いを受けているのかもしれない。
犯人という偽の親子だと仲が良く、
実の親子だとひどい扱いを受ける。
そう考えると、
「自分の親は刑務所にいる母親だけだ」
と思ってしまっても不思議ではない。