「ああ、もしもし。」
「もしもし。」
「あ、婆ちゃん? 俺だよ俺。」
「おや、Kかい?」
「ああ、そうだよKだよ。」
「久しぶりだねえ。あんたもずいぶん遠いところに行っちゃったけど、良く掛けてこられたねえ。
そういうのって、許されるのかい?」
「まあな。」
「それはそれは。神様に感謝だねえ。
あんたも遠いところに行っちゃったけど、元気かい?
いや、元気かいっていうのもおかしいねえ。」
「元気だよ。」
「あんた、声変わったねえ。まあ、でもあれだけ潰れてちゃ、仕方ないよねえ。」
「風邪ひいてるんだよ。」
「風邪もかい? そういうの、そっちにもあるのかい?」
「当たり前だろ。それより聞いてくれよ。俺、交通事故起こしちゃってさあ。」
「おやおや、そっちにも車が走ってるんだねえ。
で、そっちでもまた事故かい?
懲りないねえ。」
「車をぶつけた相手がヤクザでさ。速く慰謝料支払わないと拙いんだよ。」
「大丈夫、そっちにいるってことは、ヤクザといっても良い人だよ。
それとも、まさか落ちちゃったのかい?」
「頼むよ。指定する口座に速攻振り込んどいてくれよ。」
「わかったよ。でも金なんて、持っていけるのかい? 神様に感謝だねえ。」
【解説】
オレオレ詐欺の電話がかかってきているが、
Kはすでに交通事故で亡くなっている。
お婆ちゃんは天国からの電話だと思っている。
『まさか落ちちゃったのかい?』
というのは地獄を意味する。
『わかったよ。でも金なんて、持っていけるのかい? 神様に感謝だねえ。』
と言っていることから、
結局お婆ちゃんはオレオレ詐欺に引っかかってしまった…。