平日の昼下がり。
長年の激務から開放されたのぶ代は、近所の公園で一人のんびりとしていた。
夕暮れにさしかかった頃、砂場で遊ぶ一人の少年をみつける。
小学校低学年と見られるその少年は、小さい体に似合わない大きな黒ぶちの眼鏡をかけ、一人黙々と砂山を作る。
「おばちゃんもお手伝いしていいかな?」
少年はパッと顔をあげ、か細い声で「うん・・いいよ」と答えた。
少年の横に座り、砂山に砂をかけていくのぶ代と少年。
「一人で遊んでるの?お友達とは遊ばないのかな?」
砂山にまっすぐ視線を向けたまま、少年は答える。
「僕・・・今日は友達と喧嘩しちゃったんだ・・・
あいつすっごい凶暴な奴でさ、気にいらないとすぐ僕の事殴るんだよ」
のぶ代は目を細めながら少年を見つめる。
あぁ君みたいな子を、私はずっと知っているよ・・・と。
「僕ちゃん、ドラえもんてアニメ知ってる?」
「知ってるよ。僕タケコプターが欲しいな。あれがあれば毎日遅刻なんかしないのに!」
「おばちゃんね、ドラえもんの物真似ができるんだよ」
「本当に?やってみせてよ!」
少年は初めて小さな笑顔を見せてくれた。
「ノビ太くん、ジャイアンなんかに負けるな!僕がついてるよ!」
ふと見ると、少年の顔がうっすら雲っている。
「おばちゃん・・・ドラえもんの声は、そんな変なガラガラ声じゃないよ。
全然にてないじゃないか。うそつき!」
砂山をぐしゃりと潰し、走り去っていく少年。のぶ代は何もいえなかった。
あたりは暗くなり始めていた。
「・・・僕、ドラえもん・・・」
【解説】
2005年にドラえもんの声優が、
『大山のぶ代』から
『水田わさび』に変わった。
そのため、大山のぶ代さんの声を
知っている小学生はほとんどいない。
大山のぶ代さんの声でドラえもんを見てきた私としては、
どうも水田わさびさんの声は受け入れられませんね・・・。
大山のぶ代さんがこの物語で小学生に否定されてしまっていますが、
『・・・僕、ドラえもん・・・』という最後に寂しそうな光景が
目に浮かんできてしまいます。
時代はこうやって変わっていくんでしょうね・・・。
時代の流れの怖さ以上に、
大山のぶ代が受け入れてもらえない悲しさに
どうしても目がいってしまう物語でした。