僕の家の両隣には、
一人暮らしのおばーさんが住んでいる。
左側のおばーさんはとても優しくて、
家の前で会った時はいつも飴をくれるんだ。
でも右側のおばーさんは、
すっごいやなヤツ!
僕たちの事いっつも見てて、
ちょっとイタズラすると飛んできて怒るんだ。
昨日、
左側のおばーさんの家にボールが入っちゃったから
取ろうと思ったら、右側のおばーさんが
『声もかけずに勝手に入るんじゃない!』
って。
今日は左側のおばーさんに
『うちで遊んでくかい?』
って言われたから入ろうとしたのに、
右側のおばーさんが家から出てきて
『おかーさんに言いもせず、
勝手に人ん家あがったりするんじゃないよ!』
って怒られた。
ある日、
左側のおばーさんに連れられて
男の子が家に入って行くのが見えた。
いーな、僕たちもまだ入った事ないのに。
僕とタケルはおばーさんの家の窓から、
そーっと中を覗いた。
見えたのは台所で、
おばーさんは僕らに背を向け立っていたけど、
男の子の為に料理を作っているようだった。
ナベに食材を入れるところで
おばーさんは突然振り返り、
僕たちにニコッと微笑んだ。
『そんなとこで見とらんで、入っておいで』
僕達は喜んで、
窓から離れて玄関に入ろうとドアに手を掛けた時。
『おまえたちっ!!』
右側のおばーさんに見つかっちゃったんだ。
右側のおばーさんは僕を勢いよく引っ張って、
引きずるように僕を連れ出すと、
僕の頬を思いっきり叩いた。
あまりに驚いて、
泣きながら走って家に帰った。
ーーーー
懐かしいな。
あれから10年。
いっこ下だったタケル、
本当なら今年成人か。
右側の家のおばーさんの葬儀に参列していた俺は、
ふと昔を思い出し物思いにふけった。
口うるさいけど、いい人だった。
【解説】
左側のおばーさんは飴をあげるなど、
優しさをエサにして
子供を殺して食べていた。
最初に連れられた男の子はもちろん、
タケルも左のおばーさんの餌食になってしまった。
そのため、
『いっこ下だったタケル、
本当なら今年成人か』
と言っている。
右側のおばーさんは
なんとなく左のおばーさんを怪しいと疑っていた。
口うるさく、疎まれてしまっていたけれど、
本当はいい人で、それは語り手にも理解してもらえた。
語り手は右のおばーさんのおかげで助かった。
優しい人に着いて行ったために騙される。
これは世の中に結構溢れているように思う。
だから、詐欺なんていうものもあるのだろうし、
この話は他人事ではないな、と思ってしまった。