「すいません、○○温泉まで」
「…お客さん、そこ数年前から営業してませんが…」
「いいんです、お願いします」
Aはそう言ってタクシーに乗り込んだ。
そして道中、運転手にその場所に向かう理由を話すことにした。
「ここ最近あの廃墟となった温泉地に関する都市伝説が盛り上がってましてね。」
「はあ、そうなんですか。」
「内容はというと、実はものすごく平凡なんですね。
きもだめしに行ったら見知らぬ女が旅館から手を振っていたとか、まあそんなもんです。
ただ、おかしい点が一つある。それはそういった都市伝説が聞かれるようになった時期です。」
「時期?」
「そう。複数あるそれらの都市伝説は実はある時期から同時多発的に聞かれるようになったんですよ。」
「はあ。」
「多分に恣意的に。少なくともある種の意思が感じられた訳です。
それに興味がわきましてね、夜中に行くのはまあさすがに怖いんでこの時間なんですけどね(笑)」
「…暗いと何もわかったもんじゃないですからね。」
「ええ、そういうことです。」
「…お客さん、妖怪とか怪談といったものの意義に関して考えたことはおありですか?」
「はい?」
「いえ…着きましたよ。5,200円になります。」
Aはお金を払い、バックからカメラを取出すと鼻歌交じりに車外に出て行った。
ドアが閉まる瞬間、運転手は小さな声でこう呟いた。
「今月で、6人目なんですよ。その話聞いたの。」
【解説】
お客さんを得たいが為に、
タクシーの運転手達がこの都市伝説を広めている。
…と考えられるが、
心霊スポットなどに果たしてそこまでタクシーを使うだろうか?
何か出てすぐに逃げたいときでも関わらず、
タクシーを見つけなければいけなくなる。
また、何もなくても帰りは
タクシーを捕まえなければいけないほどの距離。
なので、基本この手の心霊スポット巡りは、
自分の車を用いるはずである。
となると、この話はもしかしたらA達によって作り出され、
広め始めているところなのではないだろうか?
タクシーの運転手はお客さんにそこの街に関することを
聞いてもいないのに話してくれたりする。
そのため、旧温泉地に行くのではなく、
この話をタクシーの運転手にすることで
他のお客さんにも話してもらえるほど繰り返すことが
目的だったのではないだろうか?
果たしてA達の正体とは?
口裂け女の都市伝説は、
『「CIA」が群集心理を利用した情報伝達速度を測るため
わざと口裂け女の噂を流した』
と言われている。
そのため、もしかしたら、
このA達もその実験として、
このような話を広めているのかもしれない。