僕の家は、3人家族だ。
僕と母と父の3人だ。
毎日、3人でソファーに座りながらTVを見るのが日課だ。
そんな、ある日の事だった。
いつものように、
僕らはソファーに座りながら、
TVを見ていた。
すると、いきなり父が
『たくや、母さんは列車の事故で死んでしまったんだ。
これからは、2人で生きていこうな』
と言いだした。
僕は、隣に座っている母を見つめたけど、
母はどうやら父の声が聞こえないようだった。
『母さんは、僕の隣に居るよ!!』
僕は叫んだ。
しかし、父は
『かわいそうに…』
と言い残し、
寝室へと行ってしまった。
少したって、母が
『突然だけど、
父さんが列車の事故に巻き込まれて死んでしまったの。
これからは、2人で生きていこうね』
と僕に行った。
『寝室に居るじゃないか!
さっきだって、隣に居たよ!』
と父の時と同じように叫んだ。
母は、泣きながら夕食を作り始めた。
僕は、焦った。
どういうことだ!
そして、しばらく考えて、
ある仮説を導き出した。
それは、
今、僕のいる世界は本来の世界ではない、
という事だ。
つまり、
列車の事故で母が死んでしまった世界と
父が死んでしまった世界。
2つの世界の間に、
僕は存在しているのではないかという事だ。
僕は、しばらくこの世界で過ごす事にした。
(というのも、どうやって元の世界へ帰ればいいのか分からないのだ。)
母が夕食を2人分テーブルに並べた。
僕は、ひとまず父の事はそのままにして、
母と夕食を食べながら、
父がここにいることをうったえた。
なかなか信じてもらえなくて、
一時間程、話し合い、
ようやく母は、僕の話を信じてくれたようで、
母に父への伝言を頼まれた。
僕は、寝室へ行き、
次は父に母がいる事をうったえた。
父も、母と同じで信じてもらうのに、苦労したが、
母からの伝言があると僕が言うと、
コロッと信じてくれた。
そして、今度は、
父に母への伝言を頼まれた。
母と父は、姿は見えなくても、
僕という存在が、
2人の世界を伝言という形で繋げていた。
しかし、初めはたわいもないやりとりだった会話(伝言)が、
だんだんとケンカに発展してしまい、
ついに、母は泣き崩れてしまった。
父は、母を
『お前が死ねば良かったんだ』
と僕を使って(伝言で)罵ったのだ。
その瞬間、僕は気づいてしまった。
元の世界にもどるためには、
父と母のどちらかを選ばなければならないと…。
僕は母を選んだ。
そして、その日を境に、
父は消えてしまった。
……………………………………
1ヶ月後、僕は母に連れられて、
カウンセリングに「あの日」の少し後から通わされている。
母は、カウンセリングの先生に
『戻る可能性は、極めて少ない』と伝えられると、
泣き叫び始めた。
『どうしてみえないの!?』
『何で!?』
僕は、すがり付いてくる母におびえ、
少し後ろに下がろうとした。
しかし、何かにぶつかり、はばまれた。
ビックリして、後ろを振り返ったが、
何にもなかった。
カウンセリングの先生が、
母を止めに入った。
カウンセリングが終わって、
外に出ようと扉を開けようと、
ドアノブに手をかけようした時、
何故かドアが開いた。
『あれ!?母さんこのドア勝手に開いたよ!!すごいね!!』
母は悲しい表情をして、
固まっていた。
どこかで、すすり泣くような声が聞こえた。
【解説】
語り手のお父さんとお母さんは
実はどちらも死んでいない。
2人はケンカをしてしまい、
2人共生きているのに、
『(お父さん、もしくはお母さんは)死んでしまった』
という嘘を語り手に信じ込ませた。
そして、互いに話したくない2人は
本当は話せるのに話せない、
見えないフリをして、
語り手に伝言という手段でケンカを再び始めた。
語り手は、
まさか自分の両親がそんな嘘をついているとは思わなかったため、
仮説をもとに、お母さんと2人で生きていくために
お母さんを泣かしたお父さんを
自分の意識の中で本当に消してしまった。
暗示(洗脳)が強かったのか、
仲直りした両親は
『今までのは嘘だった』と語り手に伝えるが、
語り手の中では父親は死んだことになっているので、
いくら周りにお父さんの存在を知らされても
目の前に立たれても、触れられても、カウンセリングを受けても、
何をしても、お母さんと2人で生きていくと決めた語り手は
もう二度と、お父さんの姿を見ることはない。
悲しいお話。
素直な子供にこんな嘘をついてしまった結果である。