「ばんっ」
―バンッ
ピストルの玉は自転車に乗った若い警官の後ろにいた、
茶色い猫に命中した。
これが始まりだった。
夜中、友達の家から自転車でフラフラと自宅に帰る途中
目の前に自転車に乗った警察官がいた。
先週、俺を未成年と間違えて
タバコを注意してきたやつだった。
俺は冗談で、親指を立て人差し指を伸ばして
指でピストルの形を作った。
「へへっ、ぴすとる」
酔っていて変にテンションが高かった。
そして警官の背中に向かって指を指した。
「……ばんっ」
―バンッ
そのまま俺はバランスを崩した。
目の前にいた猫が血まみれになっていた。
警官が気付いて振り向いた。
俺は怖くなって、
全力でその場から逃げた。
(…俺は指を指しただけだ。
…なのになんで猫が打たれてるんだ…?)
まだ酔っているんだと自分に言い聞かせ
その日はすぐに寝た。
次の日、ニュースになっていた。
警官が近くにいたから
警官を狙った可能性があるというものだ。
(…………俺?)
俺は青ざめた。
(…そんなわけない)
そしてそのまま忘れることにした。
その日の夕方、
12歳下の妹の夏休みの宿題の工作を手伝っていた。
『お兄ちゃん、針金半分に切って』
俺は針金を曲げたりねじったりしたが、
なかなか上手くいかない。
「ハサミ持ってきて」
妹はハサミを持ってきた。
「ここをハサミで切って」
俺は切るところを指定して、
ピースの指で針金を挟んで切る真似をした。
すると、ハサミも使っていないのに
針金が切れ、片方が床に落ちた。
俺は気味が悪くなった。
そして、昨日のことを思い出した。
(…俺の手は、口で言った通りの凶器になるってこと…?)
その通りだった。
「包丁」
と言えば、手でニンジンが切れ、
「カッター」
と言えば、手で紙が切れた。
それが続くのは3分で、
3分経つと普通の手に戻る。
すごく面白くて、
俺はその変な能力を気に入っていた。
そんなある日、
俺は大学のサークル仲間のみくを公園に呼び出した。
「俺、みくが好き」
「……みくは?」
『わたしも』
俺は嬉しくて舞い上がった。
そしてすぐに、彼女に近寄った。
「キス、していい?」
顔を赤くしながら彼女は頷いた。
そして目をつぶった。
俺は彼女の顎と首の辺りに手を当ててキスをした。
みくの目が再び開くことはなかった。
【解説】
語り手が無意識に発した言葉で、
彼女を無意識に殺してしまった。
『俺、みくが「好き」』 → 鋤(すき)
『……み「くは」?』 → 鍬(くわ)
どちらかに手が変形したのだろう。
最初に言った鋤になったと考えるのが妥当か。
こんな意図しない発言で変形するなんて
使い勝手が悪すぎる能力である…