あるクリスマスの夜。
一人の少女は寒空の下、
家の前でマッチを売っていた。
マッチをたくさん売るまでは、
家に戻ってもお父さんに怒られてしまうだけ。
しかし行き交う人々は、
少女には目もくれず家路を急ぐ。
寒さを少しでも和らげようと、
少女は一本のマッチに火をつけた。
「あぁ。。なんて温かい」
少女はその火の中に幻影を見た。
それは、七面鳥とケーキを囲んだ楽しそうな家族。
クリスマスツリーの下にはたくさんのプレゼントも見えた。
ところが火は、あっという間に消えてしまう。
もっと見たい、と少女は更にマッチを擦った。
するとマッチの火の中には、
少女が大好きだったおばあさんの微笑む姿があった。
ところがやはり、
火はすぐに消えかけてしまう。
おばあさんに消えて欲しくなかった少女は、
火が消える前に次のマッチを付け、
更には何本も束にして火を足し、
おばあさんとお話をした。
「おばあさんのうしろに、
今流れ星が見えたわ」
「流れ星はね。
命の火が消える時に流れるんだよ」
おばあさんが昔教えてくれたのを思い出す。
火を大きくするにつれ、
おばあさんと本当にお話した気分になり、
少女の夢も広がっていくようだった。
「もっと長く、おばあさんとお話したいわ。
でも、これが最後のマッチ。。」
そう言う悲しげな少女の足元に、
北風に飛ばされてきた新聞がまとわりついた。
少女は今にも消えそうな火を新聞紙につけた。
「いざ消す時は、このタンクに入ったお水をかければ大丈夫。
ほら、これでまたもう少し長くおばあさんとお話できるわ」
少女は家の脇に置かれたタンクの横にゆっくりと腰を下ろすと、
夢中でおばあさんとお話した。
「おばあさん、まだまだ話足りないわ」
少女の夢は益々大きくなっていった。
「見て、おばあさん。また流れ星よ。。きれいー。。」
【解説】
少女は家に帰ると父親に怒られてばかり。
そのため、父親がいなくなってくれることを
流れ星に願っていた。
少女がマッチを打っていたのは自宅前。
少女の夢が益々大きくなっていったのは、
父親への憎しみがさらに大きくなっていったことを表す。
おばあさんが言っているお水は
灯油のこと。
灯油で新聞紙の火を増大させ、
自宅を燃やした。
流れ星が二回出ているのは、
もしかしたら、父親と少女のことで
どちらも死んでしまったということを
表しているのかもしれない。
おばあさんは灯油を教えてくれたので、
ある意味願いを叶えてくれたと言えるが、
恐ろしい方法を提案したものである。