それじゃあ行ってくる。
俺は妻にそう言うと
仕事に行くため家を出た。
駅まであと5分という頃だろうか。
妻の作ってくれた弁当を忘れた事に気がついた。
電話をしようと
携帯を取り出した時だった。
キキィー!!ドーン!!
ものすごい音が背後でした。
何事かと振り向いたそこには、
ぐちゃぐちゃになった食べ物と辺り一面血の海と化し、
顔はおろか着ている服さえ分からない程に無惨な死体が広がっていた。
どうやら、
信号無視の乗用車と自転車の事故らしい。
まっすぐで、
この時間帯は交通量がほとんどないこの道。
乗用車は100km以上出していただろう。
気の毒に……
そんなことを考えていると、
俺は妻に電話するのを思い出した。
プルルルル♪
呼び出し音が鳴る。
しかし、何回かけてもでない。
きっと忘れた事に気がついて、
弁当を持って向かって来ているのだろう。
ほんとうに気のきく妻だ。
俺は世界でいちばんの幸せ者だ。
【解説】
事故にあったのは妻。
それを知った夫は
どんなにつらい思いをするだろうか…
そうぞうするだけで
胸が締め付けられそうである…
それにしても…
ひどい事故現場を見たのに
夫が冷静すぎて
それはそれで怖い…。