男は失恋したショックで
夜中に車を走らせていた
2時間が経ち辺りを見渡した
右も左もわからない
田畑と山ばかりの風景だ
人は見当たらない
「まいったな…帰る道わかんねぇや」
ケータイを見ると、
「チッ、圏外かよ…」
男は煙草を取り出す
「さぁ…どうすっかな…」
男は呟き一服する
「フーッ」
吹き出した煙が車内を舞う
「しゃあねぇ、“あれ”使うか」
男は操作を始めた
「これで…『ピッ』…ヨシッ!」
『案内ヲ開始致シマス』
機械的な女性の声が車内に響く
1時間ぐらい走らせただろうか…
周囲は変わり映えのない
田舎が続く
『次ヲ左ニ曲ガッテクダサイ』
「こんな道走ったっけ?」
男は不安に思う
しかし、男には他に頼る宛てがない
「チッ」
車を進めるしかない
さらに一時間…
『目的地周辺デス』
「チッ、やっぱりコイツの故障かよ!!」
“やっぱり”とは
昔“コイツ”を使って
道に迷ったことがあったのだ
男は車を降り、辺りを見渡した
やはり田畑と山…
だけではなかった
「あれは…墓?」
暗闇の中にひとつポツンとある
目を凝らし見てみると
「俺の…名前?」
墓には男と同姓同名の名前が刻まれていた
「こんなときにこんな奇跡いらねぇよッ!!」
その偶然が不気味に感じ
急いで車に戻りキーを捻る
しかし…
「くそっなんでかかんねぇんだよ」
何度もキーを捻る
『キキーッキキキーッキキキーッ』
乾いた音が閑静な空に響く
「早くし」
男の言葉を遮るように
機械的な声が車内に鳴り響いた
『運転オ疲レ様デシタ』
【解説】
カーナビは死への道案内、
人生は運転と考えてみる。
そのため、
『運転オ疲レ様デシタ』
は
「人生お疲れ様でした」
つまり、これから語り手は死んでしまう。
『墓には男と同姓同名の名前が刻まれていた』
が偶然ではないのであれば、
すでに現実とは異なる世界にいそうである。