男が笑っている。
私は血まみれだ。
逃げなければいけないのに体が動かない。
もう駄目かもしれない。
男は私の恋人だ。
別れを切り出した私に逆上して、
包丁を突きつけ、
そして見ての通りだ。
よくある事、なのかもしれない。
まさか自分の身に降りかかるとは…
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
家には帰れそうもありません。
男は狂ったように笑い続けている。
彼をこんな風にしたのは私。
昔は優しい人だったのだ。
悲しくなって涙が溢れる。
男は勝ち誇ったように言った。
「これで君はもう僕の事を忘れられない」
笑い声が聞こえる事は二度となかった。
【解説】
『家には帰れそうもありません』
とのことなので、
女が男を刺し殺したために、男は
『これで君はもう僕の事を忘れられない』
と言っている。
『別れを切り出した私に逆上して、
包丁を突きつけ、
そして見ての通りだ』
とあるから、男は最初から女に刺し殺されることを目的として
包丁を突きつけたのかもしれない。
男が自分で自分を切り付けて、
笑いながら死んでいったのかと思った…。
正直こちらの方が恐ろしく感じてしまう。